The Weeknd『Dawn FM』歌詞考察 「煉獄」のキーワードが意味するもの【Kaz Skellingtonのディグリントン第5回】

 「Sacrifice」の内容がさらに「Out of Time」でも表現されている。この曲のイントロとなる「A Tale By Quincy」には、The Weekndもリスペクトしているであろうクインシー・ジョーンズ(マイケル・ジャクソン「Thriller」「Bad」などプロデュース)による人生についての語りが入っている。自分が家族やパートナーと深い関係を築けない理由は、振り返れば幼少期からの深層的なトラウマにあるんじゃないかというような内容だ。「人は過去を思い返すことによってその時に気がつかなかった傷に気がつくことがある。過去を振り返るというのはすごく辛いことである」というようなことをクインシー・ジョーンズが語っている。

 「Out of Time」では「A Tale By Quincy」と同じビートが使われていて、The Weekndはこの曲でも悪癖などの誘惑に耐えきれずいろんな人を傷つけてしまったーー愛するあなたを傷つけてしまったというようなことを語っている。この曲の最後にもジム・キャリーの次のような語りが入っている。「あなたはもうすぐでトラウマや痛みや後悔、罪悪感から回復して赦される。でもあなたはそれを忘れることによって自分の名前すらも忘れてしまうかもしれない」。罪の意識が浄化される中で自分が何者なのかがわからなくなってくる、といった不穏な雰囲気も感じる。

 最後の曲「Phantom Regret by Jim」にもアウトロでジム・キャリーが登場する。「すべての未来の予定が延期されてしまったから、自分が責任をとらないといけない過去について振り返る時だ。あなたはそれをよく覚えていますか? それかドラッグでハイになっていたり、あまり覚えていませんか? 墓には何個の後悔や恨みを持っていきますか? 天国は後悔を手放したもののためにある。でもそれができていないあなたは待たないといけない。でもこの曲が終わる頃にはそこにたどり着けるかもしれない」。生きていてまったく後悔がないという人はいないはず。その後悔を手放さないとトンネルの出口の光は見えないし、トンネルを抜け出すことも次のフェーズに行くこともできない。自分の人生を振り返る機会を与えるというアルバムコンセプトを決定づけるアウトロと言えるだろう。

(※1)https://www.billboard.com/music/features/the-weeknd-blinding-lights-billboard-cover-story-2021-interview-1235001282/

関連記事