松下洸平は“最愛なあなた”に会うためにも歌い続ける 中野サンプラザから届けた全身全霊のステージ

 松下洸平のライブツアー『KOUHEI MATSUSHITA LIVE TOUR 2022 ~CANVAS~』が、1月20日、東京公演にてファイナルを迎えた。会場は「いつか立ってやると思っていた」という中野サンプラザ。フルキャパシティを埋め尽くし、全16曲を披露した。音楽が好きでしかたがない、そうした想いを身体の動くまま、言葉の進むまま、音の鳴るままに伝えきった2時間。「俳優の」でもない、「シンガーソングライターの」でもない、松下洸平をカテゴライズする必要はないと、改めて感じたライブだった。

 客電が落ちると同時に、青いペンライトが会場中を照らす。「FLY&FLOW」のイントロに乗せ、紗幕の向こうに松下のシルエットが見える。甘く、ほんの少しスモーキーな声の伸びも絶好調。曲中に紗幕が下りると、白いTシャツにピンクのシャツ、黒いパンツというラフなスタイルの松下が現れた。

 「CANVASへようこそ! 楽しんでいってくださいね!」。そう挨拶した声の明るさは、筆者が想像していた俳優・松下洸平のものではなく、ただ一人の音楽青年の、心のままの声だった。アップテンポなナンバーが続く序盤では、ステージの端から端まで、飛び跳ねるように駆け回る。目を凝らし、嬉しそうに、そして愛おしそうに2階席にも視線を送る松下。身体は音のままに踊り、マイクを持たぬ左手までも歌う。今この瞬間が楽しくてたまらないという表情だ。ともに盛り上がったファンに「120点!」と、誇らしげな笑顔を見せた。

 MCでは、松下のおちゃめな一面も垣間見える飾らないトークを聞くことができた。「初めてライブに来た人は?」という問いに、多くのファンがペンライトを揺らして答えると「うわぁ!」と驚き、深く頭を下げた。ライブ全体を通して言えること、そして松下自身も言っていたことだが、松下のライブはここから、みんなで作っていくもの。まだお決まりはなく、ペンライトも松下の先導に合わせて揺れる。けれどこれから、さらに多くの人が松下を知っていき、松下のライブに足を運ぶことだろう。そうして唯一無二の「松下洸平のライブ」が作られていく。すでに彼の音楽を見つけているファンは、幸運だと思った。

 「いつまでも初心を忘れないでいたい」と歌ったのは、18歳ごろに作ったという「止まない雨」「涙の中に君がいる」。〈若気のいたり〉〈初めて失う愛しさ〉ーー端々に、青さが愛しい歌詞を見つけた。そして青春時代からの憧れの人、プロデューサー松尾潔から贈られた「40歳、50歳、60歳になっても歌い続けたい」という大切な曲「つよがり」を、切なくも力強く歌いあげる。未音源化曲「エンドレス」は、ボーカル含む各セクションが主張しあうゴリっとした感触と、ほんの少しいびつなサウンドが心地良い、クセになる曲だ。昨年末、宮崎大輝役で出演し大きな話題を呼んだTBS金曜ドラマ『最愛』は、松下の俳優としてのキャリアにおいてまた新たな扉を開いた特別な作品だった。「『最愛』への愛を込めて」と披露したのは、同ドラマ主題歌「君に夢中」(宇多田ヒカルのカバー)。その歌声には、“大ちゃん”が歌うからこそのストーリーがあった。「また(制作チームと)ご一緒できるように頑張んなきゃなぁ」と、ぽつりと呟いた言葉も印象的だ。

 Nulbarichのギタリストであり、10代からの音楽仲間であるカンノケンタロウとのセッションコーナーでは、気心知れた二人ならではの懐かしい思い出話に花を咲かせる。松下が音楽という大好きなものに出会った時の気持ちを忘れないよう曲にした「Heart」を届けた。

 この時勢、ライブの参加を諦めた人への思いも松下は繰り返し届けた。「(配信で見ている)みなさんにもいつか必ず会いたいんだ!」「僕が歌い続けていれば、いつか会える」「今日来た人は次も必ず来るように!」と。「みんなが見てる空」は、そんな想いを優しく強く乗せた1曲。松下の歌声は不思議だ。楽曲に、自分自身の思い出がスッと重なるときもあれば、まるで自分が曲のなかの〈君〉〈あなた〉であるような気持ちになることもある。はっきりと伝わる歌詞、曲に乗せた情感、優しい視線、そのすべてはまるで、ホールの端にいる自分にさえ語りかけてくれるよう。松下は、一人ひとりに歌を届ける人なのだ。

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