手嶌葵、15周年を総括する特別公演 6人編成で響かせた“シンプル・イズ・ベスト”なアレンジと歌

 手嶌葵が1月14日、東京オペラシティ コンサートホールで『手嶌葵 15th Anniversary Concert~六重奏の調べ~』を開催した。

 本公演は昨年6月、彼女のデビュー15周年を記念してリリースされたオールタイムベストアルバム『Simple is best』を携え行われている全国コンサートツアーの特別公演。本来は11月27日に開催される予定だったが、手嶌の喉の不調により急遽延期となっていたものである。それからおよそ1カ月半ぶりの振替公演ということもあり、会場には開演前から静かな熱気が広がっていた。

 「六重奏の調べ」というサブタイトル通り、この日は通常のトリオ編成ではなくオオニシユウスケ(Gt&Ba)、大坂孝之介(Pf)、江部和幸(Vn&Gt)、門田"JAW"晃介(Sax)、そして山下あすか(Per)を率いた6人編成によるライブ。白いドレスに身を包んだ手嶌が遅れてステージに登場し、まずは『Simple is best』にも収録された「虹」を披露。2008年公開の映画『西の魔女が死んだ』の主題歌に抜擢された彼女の3枚目のシングル曲で、ピアノの弾き語りから始まり、曲が進むに従い徐々に楽器が重なっていくアレンジが聴き手の心を静かに盛り上げていく。

 続く「海を見つめる日」は、2016年のアルバム『青い図書室』に収録された、ピアノのオブリガートが印象に残る雄大なナンバー。ブレス成分をたっぷりと含む、手嶌による唯一無二の歌声はこの日も健在で、もし触れたらその瞬間に砕け散ってしまいそうなほど可憐で繊細、かつ凛とした強さをも同時に感じさせる。

 最初のMCでは、公演が延期になってしまったことについてお詫びの言葉を述べたあと、「2022年の始まりを、こうしてみなさんと一緒に迎えられてとても嬉しいです。今日は最後までゆっくりとお楽しみください」と挨拶。客席からは温かい拍手が鳴り響いた。

 続いては『美女と野獣』から「Beauty And The Beast」、『リトルマーメイド』から「Kiss The Girl」とディズニー映画の挿入曲を2曲続けて披露。どちらも主人公が恋に落ちるシーンを華やかに彩る楽曲で、作曲家アラン・メンケンのペンによる胸のすくような美しいメロディを、アコースティックなアンサンブルが最大限に引き立てていく。朗々と歌い上げるオリジナル音源のボーカルとは対照的な、手嶌のウィスパーボイスもこのあまりにも有名な楽曲たちに新たな光を当てていた。

 ライブ前半のクライマックスは、手嶌とゆかりの深いジブリ作品の名曲が続く。まずは映画『風の谷のナウシカ』の同名曲。オリジナルのボーカルは安田成美で、手嶌自身も過去にカバー音源をリリースしたことのある作品だ。メジャーキーとマイナーキーを目まぐるしく行き来するストレンジなコード進行と、一度聴いたら忘れられないクセのあるメロディ、それでいてどこまでも優しいムードをたたえたこの曲は細野晴臣のベストワークのひとつ。手嶌はそれを、グッと音数を絞り込んだシンプルなアンサンブルを率いて丁寧に歌い上げる。さらに、彼女のデビュー曲でもある『ゲド戦記』劇中挿入歌「テルーの唄」、映画『コクリコ坂から』の主題歌「さよならの夏~コクリコ坂から~」を披露。ブギーを取り入れた愉しげな楽曲「朝ごはんの歌」では、シャッフルのリズムに合わせてみんなで手拍子し、会場は一体感に包まれた。

 最新シングルであり、ドラマ『天国と地獄~サイコな2人~』主題歌として書き下ろされた「ただいま」は、愛する人の「不在」を共に暮らした部屋にいるからこそ感じてしまう、手嶌曰く「読んでも歌っても美しい」歌詞が印象的。この日は夜明け前から徐々に明るくなっていく空をイメージしたかのような、ドラマティックな照明が心を激しく揺さぶった。そして、「私のデビューを支えてくれた大事な曲」と紹介した代表曲「The Rose」を力強く歌い上げ、ライブ前半を締め括った。

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