シティポップ(再)入門:南佳孝『SOUTH OF THE BORDER』 シティポップを象徴する世界観、最高にスタイリッシュな一作

 また、こういったトロピカルサウンドに似合うリゾート感覚の歌詞も、本作を味わい深いものにしている大きな理由だ。デビュー作は松本隆、2作目は南佳孝自身が作詞を手掛けていたが、作詞家も一新。本作では南佳孝自身の他、三浦徳子なども数曲歌詞を手掛けているが、4曲書き下ろした来生えつこのセンスはずば抜けている。束の間のバカンスを過ごすヒロインを描いた「夏の女優」、都会での危うい男女の関係に“南洋植物”というヴィヴィッドなキーワードを差し込む「常夜灯」、酔いどれ男をサバンナの香りで演出する「ワンナイト・ヒーロー」など、映像が目に浮かぶような言葉に彩られている。なかでもメロウなバラードの「プールサイド」は本作のクライマックスといってもいいだろう。プールを舞台に、泳いでいる女性をどう口説こうかと考えあぐねている男性の心情を綴った名曲だ。来生えつ子が描く大人の恋模様は、まさにシティポップを象徴する世界観そのもの。そして、それに見事に応えたダンディでセクシーな南佳孝の歌声がとにかく素晴らしいのだ。

 なお、先述したミュージシャン以外にも、鈴木茂、松原正樹、佐藤博、高橋ゲタ夫といったトップミュージシャンが脇を固め、そしてジェイク・H・コンセプション、数原晋、村岡健などの管楽器奏者も多数参加している。これだけの豪華なミュージシャンを束ね、極上のラテンテイストのサウンドを生み出した坂本龍一の手腕は称賛に値するだろうし、実際に坂本龍一自身も本作のアレンジは気に入っているという。ちなみに、「プールサイド」と「終末のサンバ」には、イエロー・マジック・オーケストラのデビューを目前に控えた坂本龍一、細野晴臣、高橋ユキヒロの3人が揃っており、『SOUTH OF THE BORDER』の録音を終えた直後から、YMOの1stアルバムのレコーディングがスタートしているのも興味深い事実だ。

『SOUTH OF THE BORDER』

 リゾートを舞台にした恋物語を、スタイリッシュなサウンドに乗せて、クルーナー風のクールな歌声を聴かせる。大人のためのシティポップを表現するのに、これ以上望むことはないだろう。『SOUTH OF THE BORDER』は、南佳孝の初期の最高傑作であるだけでなく、70年代シティポップの頂点ともいっていい傑作なのである。

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