AKB48、“1年後”目指すステージに向けて 大舞台への返り咲きを期待させた2021年下半期 

 AKB48が2年連続で『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に落選した。『紅白』は、2007年にアキバ枠として中川翔子、リア・ディゾンと共演する形で初めてパフォーマンスを繰り広げ、2009年からは11年続けて出演。連続出演の期間中には、大島優子が番組中に卒業宣言(2013年)、卒業生の前田敦子と大島のサプライズ登場(2015年)、渡辺麻友のラストパフォーマンス(2017年)などさまざまなトピックスが生まれた。グループの歴史を語る上では欠かせない、毎年目標とする番組だった。

 総監督・向井地美音はYouTubeチャンネル「AKB48 / OUC48 official LIVE ch」の2021年10月1日回のなかで、『紅白』落選によってAKB48の勢いが失われている現実を突きつけられたと言い、「こんなに遠い場所だったんだ」と噛みしめるように語っていた。また、「『紅白』落選も予想できていたのが悔しい。年末にかけて1年間、今年はすごく頑張ったと自信を持って言えないわけだし」と複雑な心境を明かしていた。

【まるごと映像倉庫】コロナ禍のAKB48~総監督 向井地美音とAKB48の現在地とこれから~前編

 2021年も『紅白』の切符をつかむことはできなかった。しかし下半期のAKB48を見ていると、ポジティブな話題がいくつかあった。間違いなく風向きは変わってきており、それは2022年の大舞台への返り咲きを期待させるものである。

「根も葉もRumor」でみせた“面”のすごさ

 2021年下半期でもっとも注目したい話題は、1年半ぶりにリリースした新曲「根も葉もRumor」のすばらしい楽曲性と、リスナーたちによるムーブメントだ。

 振付はグループ史上もっとも難易度が高く、激しいとされており、“どえらいダンス”と称された。特に、ミュージックビデオにおける総勢98人の一斉ダンスは圧巻。AKB48はこれまで『選抜総選挙』など各メンバーが持つタレント性にクローズアップして売り出すことをセオリーとしていたが、同曲が押し出したのは集団性。AKB48の強みである人数を生かし、“個”ではなく“面”でグループを更新させようとしていることが分かる。

根も葉もRumor Dance Ver. / AKB48 58th Single【公式】

 AKB48は、“面”のすごさをあらためてプッシュした上で、現メンバーの魅力を再発見してもらおうとしているのではないか。逆襲に燃える向井地総監督を軸に、日韓混成グループ・IZ*ONEでの活動を経た本田仁美、STU48との兼任が解除となり、AKB48一本で勝負を賭ける同曲センターの岡田奈々など、人材の充実度が進んでいる。まるで、修行に出ていたメンバーが、鳴りを潜める元名門校に再集結したような熱い展開だ。

 また、〈ポニーテールにシュシュ〉というグループのかつての人気曲を連想させる歌詞など示唆的なワードを数多く散りばめることで、アイドルのファンや評論家らが曲内容をめぐる解釈を飛び交わせた。それはまるで2010年前後、当時の日本の社会性をてらし合わせて語られるなどした、“批評的にもっともおもしろかったAKB48”の時代を思い出させた。

【MV full】根も葉もRumor / AKB48 58th Single【公式】

 そういったノスタルジーは、「根も葉もRumor」のミュージックビデオ内でも垣間見られた。顕著なのは、ベテランメンバーの柏木由紀に対する、あえて違和感を与えるカメラのズームアップとそこにシンクロする歌詞だ。ただ昔の良い思い出に浸らせるわけではなく、〈時はあっと言う間に過ぎ去り〉〈大人になるってそういうことだって思う〉〈未来も過去も根も葉もRumor〉と歌うことでグループが新しい時代へ踏み出していることを意識させた。現在のグループだからこそできることは、一体なんなのか。そんなことを考えさせられる。語りつくせないほどの奥深さ、これこそがAKB48楽曲の真骨頂である。

「組閣」のタイミングは今しかなかった

 グループ内のチームを再編成する“組閣”が4年ぶりに実行されたのも、2021年下半期の大きな出来事である。新チームAのキャプテンは向井地美音、新チームKのキャプテンは田口愛佳、新チームBのキャプテンは浅井七海、新チーム4のキャプテンは倉野尾成美(チーム8も兼任)がつとめ、各チームに所属するメンバーもシャッフルされた。

 書籍『AKB48ヒストリー 研究生公式教本』(2011年/集英社)のなかで、当時メンバーだった高橋みなみは、「初心に戻る日なんですよ。気持ちも劇場がオープンした5年前のあの日に戻るんですよね。緊張感。ウキウキ感。入学式みたいなものかな。『これから何が始まるんだろう』っていう怖い気持ちと、高鳴る胸」と初の組閣を終えて、新チーム公演初日を迎えたときの心境をこのように思い返していた。「『あっ、ここなんだよ。私たちはここから始まるんだ』って。あの日も『新しいAKB48がここから始まるんだ』って噛みしめましたね」と気持ちを新たにすることができたという。

 筆者は4回目となる今回の組閣について、「もっともポジティブな組閣」と考えており、新型コロナの影響で停滞していたグループが本格的に動き始めた証となった。加えて今年は最後の1期生・峯岸みなみ、元総監督・横山由依、バラエティ番組などに多数出演した大家志津香などがグループを去り、今後も宮崎美穂、加藤玲奈らの卒業が控えている。“生まれ変わったAKB48”をアピールするのは、今しかない。そう考えた時、この“組閣”はベストタイミングだったのではないだろうか。

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