特集「演じること、歌うこと」

三浦透子、上白石萌音、清原果耶、菅田将暉、中村倫也、松下洸平……歌と演技を両輪駆動で進化させ続ける表現者たち

 何者かに扮してその感情を表現すること。それを生業とする俳優たちは演技という領域を越えて特別な表現者になり得る。本稿では音楽性や歌唱にも評価の集まる俳優でありアーティストたちを紹介したい。

三浦透子

 三浦透子は今年、濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』での寡黙なドライバー役が国際的にも話題になった。作中での徹底的に抑制された演技が印象的だったが、そもそも作品ごとに全く異なる人間を演じ続けている変幻自在な俳優だ。歌声は名前通りにクリアで、今年9月リリースの「通過点」では揺らめくようなトラックの中で澄んだ歌声を聴かせていた。また11月公開の映画『スパゲティコード・ラブ』では路上シンガーを演じ、劇中では役にぴったりのややくたびれた歌唱を披露。エンディングに流れる主題歌「Never」では一転し、大人びたジャズナンバーを歌いこなすなど、演じる人物に寄り添う手法から技巧が要求される音楽ジャンルまでを網羅する唯一無二の表現者になりつつあるのだ。

三浦透子 / 通過点 [music video] 

上白石萌音

 上白石萌音はこれまで演じてきた役柄に穏やかさと芯の強さが共存した人物が多く、歌声にもそのキャラクターが刻まれている。彼女の柔らかな歌声はバラードだろうと明朗な楽曲であろうと等しく安堵感で包みこむ。昨年リリースしたアルバム『あの歌』はヒットソングのカバー集でありながら紛れもなく彼女の表現に置き換わっており、原曲にはない質感に彩っている。それはまるで台詞に息を吹き込むかのようなアプローチであり、演技と歌唱をデビュー当時から磨き続けてきたからこそ成せる音楽との向き合い方だろう。自身で作詞を行った最新シングル曲「スピン」ではストーリーテーリングの面もより奥深くなっており、彼女自身の心象が今後の創作に大きく影響する可能性も高く目が離せない。

上白石萌音 「スピン」 Music Video short ver. 

adieu(上白石萌歌)

 そんな上白石萌音の妹である上白石萌歌はadieu名義で音楽活動を行っている。フランス語で“永遠のお別れ”を意味するアーティストネームに導かれたかのような、感傷や切なさを醸し出す物憂げな歌声が特徴的だ。6月リリースの『adieu2』では君島大空、小袋成彬、古舘祐太郎(2)が作詞作曲、藤井風らを手掛けるYaffleが編曲という国内の先鋭的なクリエイターが集結。練り上げられたシチュエーションで情感豊かに表現を繰り出していく歌唱は、やはり演技で培ってきた経験値が活きているように思う。カネコアヤノが提供した「天使」ではいつになく陽気でからっとした歌声も聴かせており、そのディレクション次第でまだまだ無限に世界を広げていきそうだ。

adieu [ 天使 ] 

森七菜

 森七菜の歌唱は飾らなさと技巧が混ざり合っており、自然体でありながら緻密に練られた彼女の演技と通じている。デビュー曲「カエルノウタ」は自身の出演した映画『ラストレター』主題歌で、映画そのものの純粋さを担うようなスケールの大きな1曲であり、次のリリースとなったホフディランのカバー「スマイル」は彼女の朗らかなイメージを投影したような楽曲だった。この2曲だけでも、彼女はあどけなさを別方向にチューニングしているのだ。2021年にリリースされた「深海」はコロナ禍で彼女自身が感じ取った感情をYOASOBIのコンポーザーも務めるAyaseが楽曲に落とし込んだ1曲であり、複雑なリズムと音階に少し大人びた歌唱を聴かせた。最新曲「背伸び」は彼女の出世作となったアニメーション映画『天気の子』の監督である新海誠が作詞を担当。脚本をあて書きしたような世界観の中で瑞々しい歌唱を引き出している。本質的な強みと表現者としての現在進行形の成長をキャリアとともに音楽にも刻んでいるのだ。

森七菜 背伸び Music Video 

清原果耶

 清原果耶はまだリリース数は少ないながらもこれからの活動に期待を寄せたいハイクオリティな楽曲が多い。本人名義では去年、自身の主演映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』の主題歌としてCoccoプロデュースでリリースした「今とあの頃の僕ら」がデビュー曲だが、2019年には役柄の名義ですでにデビューを果たしていた。映画『デイアンドナイト』の主題歌として、彼女が演じた大野奈々という名前で発表した野田洋次郎プロデュースの「気まぐれ雲」は荘厳な響きと凛とした歌声が溶け合った圧倒的な力強さがある。重たい虚しさに満ちた映画本編をそっと癒す重要な1曲で、大野奈々として物語を生きた彼女だからこそ残せた歌だ。彼女の場合は役柄を通して歌うことでも、大切な1曲を生み出していくのではないだろうか。

清原果耶 - 1st Single「今とあの頃の僕ら 」(Music Video) 

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