スティング、混迷極める世界に架けた音楽の橋 “黄金の時間”に生み出された新作を聴いて

 振り返ると、前作の『ニューヨーク9番街57丁目』以来、とてもキャリア40年以上にわたってトップアーティストの座にいるとは思えないほど精力的な仕事ぶりである。2018年春にはシャギーとがっちりと組んだアルバム『44/876』を出したかと思えば、2019年にはポリス&ソロ時代の名曲の数々を現代的な解釈でセルフカバーした『マイ・ソングス』も発表。そして日本のファンにとって忘れられないのが、『マイ・ソングス』を提げて行われた2019年に実現した来日公演だ。

 「孤独のメッセージ」で始まり、誰もが聴きたい曲がぎっしりと詰まったそのライブは、まったく年齢を感じさせない鍛え抜かれた自らの肉体のように充実したもので、今も忘れられない。ベースを弾きまくり、複雑なナンバーから、かつてのパンク、レゲエ色をストレートに振りまく楽曲まで見事なパフォーマンスだった。しかもツアーと同時進行的に『ザ・ラスト・シップ』の公演もやっていたのだから、改めてワーカホリックな日常こそ、彼にとっては快適なのかもしれない。

 だからこそ、天から与えられた時間を黄金の時間に変えることなど、容易だったに違いない。本作のオープナー「ラッシング・ウォーター」(=奔流)を始め、水に関連したナンバーも特徴的で、時代に流されたり、方向を見失うことなく歩み続ける人々を勇気づける作品にもなっている。

Sting - Rushing Water (Official Video)

 また「イフ・イッツ・ラヴ」や「フォー・ハー・ラヴ」のようなストレートなラブソングもあり、16世紀のイングランドとスコットランドの闘いに思いを馳せる「ザ・ヒルズ・オン・ザ・ボーダー」や、17世紀のバラッドを翻案した「キャプテン・ベイトマン」のようなスティングならではのナンバーも揃っている。全体を通してとても落ち着いた表情豊かなアルバムであり、日本盤ボーナストラックにはオーティス・レディングの名曲で、以前からスティングがフェイバリットソングとして挙げ続けている「ドック・オブ・ベイ」や、ニルソンが映画『真夜中のカーボーイ』のために書いた「孤独のニューヨーク」が収録されているのも嬉しいところ。

 かつて、どんな苦しい時でも「僕が荒れた海に架けられた橋のようになろう」(サイモン&ガーファンクル「明日に架ける橋」)と書いたのはポール・サイモンだったが、スティングもまた、『ザ・ブリッジ』を明日に架ける橋として意識したのだろう。

スティング『ザ・ブリッジ』

■リリース情報
スティング
『ザ・ブリッジ』
2021年11月19日(水)発売
試聴はこちら

【日本盤】
ボーナス・トラック1曲収録/日本盤のみSHM-CD仕様/スティングによるライナーノーツ・日本語訳付

【CD+DVDデラックス盤】
UICY-79755/4,070円(税込)/日本独自企画盤/7インチ・サイズ・パッケージ/折込ポスター2枚封入

【CD通常盤】
UICY-16021/2,750円(税込)

<収録曲>
1. ラッシング・ウォーター
2. イフ・イッツ・ラヴ
3. ザ・ブック・オブ・ナンバーズ
4. ラヴィング・ユー
5. ハーモニー・ロード
6. フォー・ハー・ラヴ
7. ザ・ヒルズ・オン・ザ・ボーダー
8. キャプテン・ベイトマン
9. ザ・ベルズ・オブ・セント・トマス
10. ザ・ブリッジ
11. ウォーター・オブ・タイン
12. キャプテン・ベイトマンズ・ベースメント
13. ドック・オブ・ベイ
14. 孤独のニューヨーク ※
※ボーナストラック

<DVD>
インタヴュー&トラック・バイ・トラック<日本語字幕付>
ラッシング・ウォーター(ミュージック・ビデオ)
イフ・イッツ・ラヴ(ミュージック・ビデオ)
イフ・イッツ・ラヴ(アニメーション・ビデオ)

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