山本彩、音楽に込めた明確な意思 万雷の拍手が会場を満たした『SAYAKA YAMAMOTO TOUR 2021 ~ re ~』東京公演レポ

 もう一つは、スクリーンを使用したVTRの物語性だ。オープニング映像に映りこまれた「reboot」「refine」「remedy」「release」の4つのコンセプトはツアータイトルの『re』にかかっているだけでなく、本編途中に流れる幕間映像にもそれらの意味合いが込められている。「ゼロ ユニバース」のイントロで映し出された時計は楽曲を象徴するアイテム。さらに、その日の現場入りからリハーサル、本番直前、ライブ中、と山本とファンに密着した映像が本編ラストの「ドラマチックに乾杯」で流れたのには、想像の遥か上をいっていた。筆者は会場で観ていたため、なおさらそのライブに参加する一人として、有観客でのライブの一体感を覚えた瞬間であった。

 冒頭で先述した通りに、今回のツアーには『α』ツアーのリベンジの意味合いが込められているのは間違いない。だが、蓋を開けてみると『α』リリース以降でさらに築き上げた新たな山本彩を提示するセットリストのようにも感じた。細かく見ていくと、『α』からはリード曲である「TRUE BLUE」を筆頭に、「unreachable」「Larimar」「Are you ready?」の4曲のみ(アコースティックで披露した「イチリンソウ」も含めれば5曲)。ダンスブロックの3曲を含め、本編7曲目までは『α』と『ゼロ ユニバース』『ドラマチックに乾杯』のシングル2作からの楽曲が中心にあった。

 公式YouTubeチャンネルで唯一無料配信もされたライブ1曲目の「oasis」は、SHE’Sの井上竜馬(Vo/Key)がプロデュースし、SHE’Sが編曲および演奏を担当した楽曲。異国情緒の中にどこか郷愁を感じさせるバンドサウンドが特徴的であるが、この楽曲は山本がコロナ禍における自粛期間に思った素直な気持ちが綴られた歌詞でもある。そんな当時の不安を打破するかのような力強くも凛々しい歌声は、ライブのオープニングを飾るのに相応しい。

 そして、この日のライブで「ゼロ ユニバース」の一節が筆者の心にそっと残り続けた。

〈描いた理想の自分に いちのさんで変われたら どんなに幸せだろうと毎日考えている〉

 「ゼロ ユニバース」の歌い出しの歌詞がそっくりそのまま今の彼女の心情を表している。「自分も見つめられない人に周りの人なんかを励ます余裕なんかなくって」ーー不安定な自分自身を認めながらも、山本の中ですでに答えは出ていた。

「みんなに支えてもらう側じゃなくって支える側になりたい」
「たくさんの恩をもらっているので、まずは自分に負けずに頑張っていきたい」

 その言葉に会場は万雷の拍手で応える。アンコールが終わり、山本がステージから去っても鳴り止まぬ拍手はファンから彼女に向けられたエールのようにも聞こえた。

『SAYAKA YAMAMOTO TOUR 2021 ~ re ~』セットリスト

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