センチミリメンタル、人間の矛盾を肯定する温かさ 別れや葛藤に直面した多くの人に求められる音楽に
センチミリメンタルが1stフルアルバム『やさしい刃物』を12月1日にリリースした。
センチミリメンタルは、作詞、作曲、編曲、歌唱、ピアノ、ギター、プログラミングのすべてを担う温詞によるソロプロジェクト。2019年9月のメジャーデビュー以降に発表した曲のうち、「キヅアト」はTVアニメ『ギヴン』(フジテレビ系)のOPテーマ、「僕らだけの主題歌」は劇場版アニメ『映画 ギヴン』の主題歌、「青春の演舞」はTVアニメ『バクテン!!』(フジテレビ系)のOPテーマに抜擢されるなどアニメ作品との縁が深く、これらをきっかけにセンチミリメンタルを知ったというファンも多いだろう。また、声優の矢野奨吾がボーカルを務めるアニメ『ギヴン』の劇中バンド=ギヴンのサウンドプロデュースも手掛けていて、『やさしい刃物』と同日にギヴンの2ndシングル『うらがわの存在』もリリースされた。
名刺代わりの1stフルアルバムを語る上で、センチミリメンタルおよび温詞の来歴に触れたい。センチミリメンタルのメジャーデビューのきっかけは、温詞が2015年当時にやっていた別のプロジェクト・ねぇ、忘れないでね。が『イナズマゲート2015』でグランプリを獲得したこと。“オーディションで見出されてデビューを果たした”と言うと華麗なストーリーのように聞こえるが、順風満帆な道のりを歩んできたわけではない。温詞は長い間インディーズシーンでバンド活動を続けていたが、そのバンドが日の目を見ることはなく、メンバーが離れていくなかでピアノ以外の楽器も演奏できるようになった。打ち込みの勉強を本格的に始めたのもこの頃だ(※1)。冒頭で“作詞、作曲、編曲、歌唱、ピアノ、ギター、プログラミングのすべてを担う”と書いたが、本人からすると“音楽を続けるためには担わざるを得なかった”という感覚なのかもしれない。
もっと遡ると、温詞は幼少期からクラシックピアノを習っていて、本人によれば中学生の頃に編曲込みの曲作りを始めた。そしてその豊かなルーツが現在の音楽性の土台になっている。わかりやすい例がメジャーデビュー曲でTVアニメ『ギヴン』OPテーマの「キヅアト」。〈君が置いてったものばっかが/僕のすべてになったの〉と歌う切実な感情を体現する、バンドサウンドを主体としたアッパーチューンだ。バンドを舞台にしたアニメの物語に寄り添った曲を書けたのは、温詞自身がバンド活動における喜びや葛藤を身をもって経験しているから。また、Cdimから始まる冒頭のコード進行はピアノ奏者ならではの発想であり、オーケストラを大胆に取り入れた後半の展開にはクラシックをルーツに持つ彼の強みが表れている。
ここでは一例として「キヅアト」を挙げたが、温詞のソングライティング力の高さは「キヅアト」以外の曲にも痛快なほどに反映されており、『やさしい刃物』はそれを存分に堪能できる作品と言えよう。助走のビートやさりげない転調でも高揚感や一抹の切なさを表現する「僕らだけの主題歌」。エネルギッシュな曲調で転んでも立ち上がる人の美しさを体現する「⻘春の演舞」。TikTokで話題となったウェディングソングが原曲の「とって」(結婚に限らない普遍的な愛を歌った曲として受け取ってほしいという想いから現タイトルに変更したとのこと/※2)。ワルツのリズムに乗せて〈死んでしまいたい〉と繰り返す「死んでしまいたい、」はインパクトの強い曲だが、強い言葉の裏側に隠された本心を曝け出す内容が聴き手の本音をも受け止める。同じく、道ならぬ恋を題材に〈それをだれかが かなしみ と よんでも/ぼくは あなたと あしたも いたいの〉と歌う「対落」にも聴く人を孤独にさせない温かさを感じた。