AKB48、今求められる“総監督”としての役割とは? 横山由依卒業を前に考える
ピンチをチャンスに、向井地美音総監督の意思
15期生・向井地美音が3代目総監督に指名されたのが、2018年12月8日の『AKB48劇場13周年特別記念公演』夜公演。その半年前の2018年6月に開かれた『第10回AKB48世界選抜総選挙』では、「AKB48グループの総監督になりたい」とスピーチしていた。その念願が叶い、翌年4月1日に正式就任。ポジティブな気持ちで重責を引き受けた。
先述のスピーチ然り、総監督に就任するずっと前から向井地はグループをリードすることに意欲を燃やしていた。雑誌『フレッシュヤンヤン 2016 SPRING』(2016年/星雲社)では「“次世代”とか言われつつ、もう18歳だし。たとえば前田(敦子)さんが18の頃は、一番前で引っ張られていたと思うので、本当に頑張らないと」と飛躍を誓い、雑誌『BUBUKA 2017年7月号』(白夜書房)では「卒業生が次々と出ていることは、AKB48にとってピンチではあると思いますが、逆にチャンスでもあるんです」と新時代に眼差しを向けていた。
もちろん、過渡期からなかなか抜け出せないグループを取り巻く現実は甘くはない。現状、2019年まで11年連続で出場していた『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)には2年連続で落選、名物『選抜総選挙』は2018年を最後に行われておらず、新型コロナの状況もあり握手会開催の見通しも未だ立っていない。2021年現在も、AKB48は多くの課題を抱えているようだ。
それでも向井地総監督は前を向く。今年の『紅白歌合戦』落選の際も、「今年も紅白歌合戦への出場は叶いませんでした。1年前、ゆきりんさん(柏木由紀)が『来年は心から悔しいと言えるくらい頑張ろう』と言ってくれた言葉をずっと心に留めながら活動してきました。だから言わせてください。悔しい!!!!! 今のAKB48で、あの舞台へ。大きな目標を胸に来年も頑張ります」とツイート。何があっても諦めない姿勢を押し出した。
AKB48の冠番組『乃木坂に、越されました~AKB48、色々あってテレ東からの大逆襲!~』(テレビ東京系)で総合演出・プロデューサーをつとめる高橋弘樹へのインタビューを行った際、「番組を始めるにあたって、はじめにほぼ全メンバーと面談した時に、『もうちょっと闘争心があったら良いな、ギラッとして欲しいな』とは感じました」とのコメントがあった(※1)。確かに今のAKB48からはそういった印象を受けてしまう。だからこそ、向井地が総監督としてどのようにメンバーを鼓舞していくのかがポイントになる。
高橋は、卒業前に開催したプロデュース公演『いちごちゃんず公演』(2016年2月18日)で、向井地ら15期生に対し「メンバーたちから『こんなことやあんなことがやりたい』という提案が上がるのが、今のAKB48にはすごく大事』と積極性を出すように願った。高橋のそういったメッセージを受けて、向井地は「いつか先輩を追い越せるぐらいの存在になりたい」と堂々とコメント。その言葉を実践に移すときが迫ってきている。
秋元康の総監督論「痛みのわかっているリーダーは説得力がある」
AKB48の総監督の座は、自分のことだけではなく、ほかのメンバーと同じ目線に立てる人間にこそふさわしい。高橋は、怒るときは怒り、誰かが泣いているときは一緒に涙を流せるメンバーだった。喜怒哀楽をはっきり示しながらキャプテンシーを発揮し、信頼を得ていた。
横山も、総監督就任前の雑誌『FREECELL 特別号21』(2013年/プレビジョン)のインタビューで、後輩育成について「背中を見せることはできないかもしれないですけど、一緒の立場に立ってフォローしながらだったらいけるのかなと思います」と語っており、総監督になってからもその言葉に近いスタンスで活動していた。
秋元は書籍『AKB48の戦略!秋元康の仕事術』で、高橋のことを「痛みのわかっているリーダーだから、すごく説得力がある」と評していたが、その総監督論は横山にも当てはまっていた。どちらも、仲間たちの悩みに向き合い、その痛みを共有しながらグループを牽引した。
現総監督の向井地はどうか。YouTubeチャンネル『AKB48 / OUC48 official LIVE』の10月1日配信回「【まるごと映像倉庫】コロナ禍のAKB48~総監督 向井地美音とAKB48の現在地とこれから~前編」で、総監督という立ち位置について問われた際「まだ何も成し遂げられていない。総監督という役職になったことで、『つらいことより良い思いをしている方が多いんじゃないか』と言われることもある。自分でも得ばかりしているんじゃないかと思って不安になり、大変のことをやらなければってなっている。ただ、今(新型コロナ)は大変なことさえもできない」と葛藤する胸の内を明かした。
こういった厳しい現状での経験は、いずれ必ず生かされるはず。今実感しているその“痛み”こそが、向井地を総監督としてより大きくしていく。
※1:https://realsound.jp/2021/08/post-842754.html