AA=、冬の時代に音楽で示した確固たる信念 閉塞感に立ち向かう9篇の物語を紐解く
冬という季節がたまたまリリースの時期と重なりはするが、もちろんそうしたメタファーが用いられているのが季節感演出などのためであろうはずもなく、どこか現実離れした昨今の世相、コロナ禍の日常で浮き彫りにされた「見えなくていいはずのもの」の正体、何もかもが停滞した状況下で考える時間ばかりが増えたからこそ渦巻いた感情……といったものが描かれていることは疑う余地もない。いわばこの作品は、コロナ禍の産物なのだ。言い換えるならば、このパンデミックがなければ発想すらし得なかった作品であり、同時に、こうした事態になっていなければ作らずに済んだはずの作品だともいえるのだ。もっと言うならば、コロナ禍により世の中の腐った部分がより鮮明に見えてしまったことで、人間が人間らしく生きていく上で何が敵なのか、何と闘うべきなのかが浮かび上がってきたことで、上田は今こそ刮目を呼びかけるべき局面だと考えたのかもしれない。
こうした筆者の記述からは、なにやら社会的で重苦しくて希望のない音楽のように誤解されてしまうかもしれないが、ここで重要なのは『story of Suite #19』が、単なる世相の記録などではなく、音楽ファンの日常を豊かにし得るエンターテインメント作品として成立しているという事実だ。確かに、言葉は重く、しかも研ぎ澄まされていて、聴き流すことを許さない厳しさを伴っている。しかしそこに情景をまとわせるサウンドスケープは、躍動と刺激に満ち、聴く者の心を躍らせるものだ。負の感情を生に、ネガティブをポジティブに変換する術を、上田は知り尽くしているのだろう。というか、それを音楽へと昇華させていくことが、彼にとっての生のメカニズムともいえるのではないかと思う。しかもそうした彼の姿勢、思考の在り方が共感を呼ぶからこそ、AA=の音楽は、そのジャンル感や音楽表現としての斬新さばかりではない次元で支持を集めてきたのだろう。
こうして今作を試聴した上での私見を書き連ねてきたが、残念ながらこれはあくまで筆者個人の想像と憶測によるものであり、上田自身の意図するところとどれほど合致しているのかはわからない。近く、彼自身の言葉と共に、改めてこの特殊な作品について具体的に深堀りする機会を設けたいと考えている。
最後にひとつだけ付け加えておくと、この作品は前述の通りオンラインのみの完全限定販売となるが、CD単体でのリリースではなく、オリジナルフリースマフラーという特典が付いた特別仕様となっている。雪の止まない寒い季節に立ち向かう時に欠かせないマフラーのように、AA=の音楽は、厳しい現実と向き合う勇気を与えてくれる。こうしたコンセプチュアルな作品を発明してしまうイノベイターとしての部分と、リスナーに気づきをもたらしながら前進を促してくれるような力を、上田剛士は併せ持っている。『story of Suite #19』を通じて、筆者が彼に対して抱いてきた信頼の念はいっそう強いものとなった。これから本作に触れる人の多くにも、きっと同じことが起きるに違いない。
■リリース情報
AA=『story of Suite #19』
※VICTOR ONLINE STORE限定販売商品
予約はこちら
2021年12月1日(水)発送予定
CD+スペシャルフリースマフラー/¥6,600(税込)
全9曲収録(1CD)
2021年11月1日~予約開始/12月1日より順次発送開始予定
AA= 公式サイト:https://aaequal.com/