上妻宏光が掲げる『伝統と革新』とは何か 由紀さおり、押尾コータローらも参加した20周年公演レポ

コラボレーションで広げた三味線の可能性

 後半は一転、ゲストを迎えて賑やかなトークと共にスペシャルなコラボレーションを繰り広げた。

 最初に迎えたのは、東儀秀樹。東儀と上妻は、昨年のステイホーム期間に「春よ、来い」の和楽器リモートセッション動画を公開したことでも話題を集めた。伝統音楽を一般に広めた先輩として「背中を見て勇気をいただいた」と、東儀に敬意を表した上妻。東儀が奏でる神秘的な音色に導かれ、心は平安時代にタイムトリップした「tears…」。一転、疾走感溢れる「獅子の風」では、会場に手拍子が広がった。「東儀さんといると必ず珍事件が起きるんです」(上妻)、「ひちりきが似合う曲。やるね!」(東儀)と話すなど、非常に和気あいあいとした空気。「せっかくだから」と、その場で急遽セッションを繰り広げるサービスもあり、観客も大きな拍手を贈った。

 続いて呼び込まれた押尾コータローは、上妻を「あがっち」と呼ぶ間柄。弦楽器1本でここまでやって来た者同士、常に刺激を与え合って来たと言い、MCでは弦の配置や張り替えについての超マニアックな話題も飛び出した。三味線とギターだけによる「Wonder」は、押尾のパーカッシヴな演奏によってまるでバンドサウンドを聴いているような広がり。また、押尾コータローの「GOLD RUSH」も披露され、ポップなメロディを奏でる三味線の汎用性の高さを見せつけた。

 そして最後のゲストは、緑の艶やかな着物をまとった由紀さおり。「由紀さんはオーラが違う」と上妻。それに対して「伝統を打ち破ってその先にチャレンジしている姿勢に刺激をもらう。いい影響を受けて今日を迎えました」と、由紀。「りんご追分」を、しっとりとして存在感のある歌声で歌い上げ、古き良き昭和のゆったりとした時間が会場に流れた。一方「車屋さん」は、このサポートメンバーだからこその、非常に現代的なサウンドで演奏。時代を超えても色褪せない名曲の力と、積み重ねられたからこその色艶を持った歌声の力を感じさせた。

 当たり前にあったものが、いかに当たり前ではなかったかを気づかされたコロナ禍。取捨選択を迫られ、新しい生活様式にも慣れた昨今。その中で、変わらないものの良さと、変わるものの良さを改めて考えさせられ、伝統は守っていくべきものだが、決して変わってはいけないものではないと感じた。変わりゆく時代と共に変化し繋がって行くことが、きっと伝統を守ることに繋がる。上妻の20年が、それを証明してくれている。

 「大変な時期にこれだけたくさんの人に集まっていただき、ありがとうございます。最後に津軽三味線で最も有名な『津軽じょんがら節』を聴いていただこうと思います」。匠の演奏に息を飲んで聴き入った観客。そこにあったのは、ただ三味線を愛する1人のミュージシャンのひたむきな演奏と、受け継がれてきた伝統が上妻宏光の中に息づきながらも革新し続けていくことへの覚悟だった。

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