『ミュージックレイン・オールスターMIX ”バイブル” mixed by DJ和』選曲会議に潜入!(前編)
スフィア&TrySailが声優音楽シーンに与えた影響とは? DJ和、ミト、冨田明宏らが<ミュージックレイン>を巡って大激論
“よく分かるミュージックレイン”をテーマに、<ミュージックレイン>所属アーティストの楽曲で構成された『ミュージックレイン・オールスターMIX ”バイブル” mixed by DJ和』。このMIX CDに収録される楽曲の選曲会議が、8月都内で行われた。
選曲メンバーは、今回ミックスを担当するDJ和、数々の楽曲提供をおこなってきたクラムボン・ミト、所属声優のレギュラーラジオの構成を担当する放送作家・色川奈津子、アニメイトでオーディオ・ビジュアル商品を担当するバイヤー・松原正泰、インタビューやMC等で様々な企画を担当してきた冨田明宏、と<ミュージックレイン>に縁深い識者たち。会議の進行は冨田が担当。事前に各アーティストにつき3曲ずつ選曲し、重複している楽曲を中心に検討していくという形がとられた。(草野英絵)
「スフィアのデビューは事件だった」(冨田)
冨田明宏(以下、冨田):やっぱり、この山を越えなければ先に進まないだろう、<ミュージックレイン>と声優さんの音楽活動は、スフィアをおいては語れない、ということでスフィアから話していこうと思います。活動歴が長いグループですが、皆様が選ばれた曲が何曲か重複していまして、例えばデビュー曲「Future Stream」、「Now loading...SKY!!」、「Non stop road」、「LET・ME・DO!!」あたりが被っている。じゃあもうこの辺の3曲でいいんじゃないか(笑)という話ではあるんですけど、そうはいかない。「HIGH POWERED」「MOON SIGNAL」、人気曲、ライブで盛り上がる曲というのもあるので……さあどうしよう? というところなんですけど。
ミト:松原さんに告白しなければならないことがあって。2009年の『Future Stream』発売当日、秋葉原のアニメイトのビルに全面ポップが出ていたじゃないですか。あの目の前で買ったんですよ。忘れもしないです。めちゃくちゃ天気の良い日に買わせていただいて。
スフィアは、やっぱり鳴り物入り感がすごかったんですよ。過去にいろいろな声優アイドルのグループがいますし、僕も2001年位からかなり追っかけている方だと思うんですけど、煌びやかさというか本格的なアイドルのプロモーションという感じは今までに見なかった。深夜の宣伝の数がやばかった(笑)。毎日、見ない日はないんじゃないかと。
冨田:喧騒というか。あの日を振り返って、スフィアがデビューするのは1つ、事件だったと思うんですよね。小売店の立場だとどうですか。
松原正泰(以下、松原):どっちに転ぶか、まだわからなかったんですけど。「スフィアを盛り上げなければ!」みたいなところはありましたよね。
冨田:作品ごとの声優ユニットだったり、パーマネントではない形の声優ユニットはいましたけど、ずっと継続したユニットとしていまだに活躍している……そういうアーティストがデビューするという、新しい息吹みたいなものを感じました。
ミト:90年代の終わり頃や2000年代の頭とか、声優ユニットのプレゼンテーションは、もうちょっとこじんまりしていたというか。やまとなでしこが新宿アルタの前でシークレットライブをした時は、分かる人だけが集まっていたし、そこまでポピュラリティもなかった。やっぱり2006年からのアニメシーンの強烈なリバイバルだったり、革新的なアニソンの黎明がものすごい勢いで尾をひいてここに来た、というのだけが自分の中で革命的にでかくて。なんかお祭りでしたよね。
色川奈津子(以下、色川):「Future Stream」は、絶対みんな選ぶだろうなと思って選ばなかったんです。ライブで観たときに、お客さんにとっての思い入れもすごいのが、コールの大きさで分かりますよね。どの曲も全力だけど「Future Stream」がかかったときの、「今までも本気だったけど、もうちょっと本気出さなきゃだめじゃない?」感でコールをしてくるから。
冨田:「Future Stream」、スフィアがどれだけ衝撃があったかという話があった中で、やっぱりこの曲を選ぶべきじゃないかなというのは、和さんのコメントで、「今回のCDは、これが1曲目じゃないか」と。
DJ和:僕もこの会議のあとを想像して、どういう曲順にするんだろうと相当悩むんだろうなと思っていて。頭の1曲目と最後の曲は、どう締めるべきなのかなと頭抱えていて。でも1曲目は、どう考えてもスフィアから始めるべきだよなと思って。そのスフィアの中で1曲目と言ったら、「Future Stream」しかないだろうなと。
松原:ファン歓喜ですよ。今回の企画においては、「わかっているな、お前は」って。
冨田:逆にこれが頭にないと、「わかってねぇな」になっちゃう(笑)。
DJ和:今回のCDでは、これを1曲目にしてスタートすることが間違いなくいいだろう、これは外せないだろうなって。あとは(選べる楽曲が)4曲あったら、「MOON SIGNAL」を絶対入れている。
松原:意外でした。「MOON SIGNAL」は、もっと皆さん選んでくると思って。
冨田:みんな多分4曲目であげているのが「MOON SIGNAL」なんですよね。「Future Stream」は入れるということでいいんじゃないかと思います。残りの2枠で「Now loading...SKY!!」、「Non stop road」、「LET・ME・DO!!」、「MOON SIGNAL」をどう検討していくか。色川さん、「Now loading...SKY!!」を入れたい理由を伺いたい。
色川:私がこの曲を選んだ理由は、5人目のスフィアになれると思っているからなんです。PVも、4人が1つのカメラに対してわちゃわちゃしながら撮っているんですけど、私もそこに入りたいなとすごく思うし、自分にとってめちゃくちゃ身近な曲で。
冨田:彼女たちの温度感がすごく伝わる感じがありますよね。もう1人(この曲を)選んでいるのがミトさん。
ミト:当時のアニソンのクオリティーの底上げの中で、だいぶ貢献した楽曲で。これは、J-POPの、いわゆるハウス的なクラブシーンでの流用。音楽のジャンルでいうと、ネオ・ソウルやクラブ・ジャズのテーゼをここまでアップデートして、あの時代に作った曲はほとんどないですよね。僕ははじめ、クラブのシーンの人……それこそ大沢(伸一)さんがトラックを作ったんじゃないかと思ったぐらい、強烈なハイブリット感とクオリティーの高さだったんです。これを聴いた瞬間に、底なしの可能性が出て来ちゃったなと。本当に音楽家として、誰もが最高と言える曲ですね。多分、アニクラ案件だったら、殆どと言っていいほどかけてます。
DJ和:DJに相当人気の曲です、繋ぎやすいですし。クラブで聴きたくなる曲ではありますよね。
冨田:そういう和さんは「Now loading...SKY!!」ではなく?
DJ和:スフィアは今回のCDの中の核でもあると思っていたので、3曲連続で繋ぐことはないだろうと思って。「Future Stream」が1曲目だと勝手に思っていたので、最後のほうに来るスフィアの曲はなんだろうなという考え方をしていて、ライブの後半の盛り上げみたいなイメージで「LET・ME・DO!!」かなと。
冨田:まさにそこなんですよね。ライブに愛され、ライブを愛し、ファンの皆さんと成長していった印象があって、「LET・ME・DO!!」って象徴的な1つじゃないかなと思って選んでいたりする。
ミト:でも、和くんが最終的にミックスする上で、「Future Stream」を挙げた後に「Now loading...SKY!!」を挙げづらいのは、BPMが近いんですよ。テンポが近いから、いろいろばらけさせたい。両手をあげて挙げられない理由もすごくわかる。
松原:僕はスフィアの曲を選ぶときに、ライブで上がっている曲は、しっかり選んでいきたいと思ったんですよ。その時に出たのが、「MOON SIGNAL」と「LET・ME・DO!!」と、「HIGH POWERED」。どれにするか悩んで、僕の中では「HIGH POWERED」になったんです。
冨田:僕は「Non stop road」を選んでいますけど、今気持ち的が傾いていて「Now loading...SKY!!」に1票を入れていいかなと。
色川:ミトさんやりましたよ!(笑)
冨田:ミトさんの音楽的な観点を見ても、やっぱりスフィアは非常にポップで、キャッチーなユニットではあるんですけど、実は高度なんだよ、ということも知ってもらう機会ではある。なので、「Future Stream」と「Now loading...SKY!!」は決まりでいいかなと。あと1曲どうしよう? というところ。「MOON SIGNAL」はさっき言った通りで、皆さん(リストには)挙げていないとはいえ、入っていてもおかしくない。
ミト:逆に言うと、(リストには)書いていないですが、全員が言ったタイトルって、今のところ「MOON SIGNAL」かもしれないですね。
色川:単純に、ファンの皆さんが本当に好きなんだろうなというのがわかるんですよね。ラジオで「MOON SIGNAL」をかけると、「ムンシグ(MOON SIGNAL)きた!」って反響がすごい。
松原:ライブでアガる曲、「MOON SIGNAL」「LET・ME・DO!!」「HIGH POWERED」の3曲の中で、うちで一番売れたのは「MOON SIGNAL」がぶっちぎりで。
冨田:出た! 出たぞ! アニメイトのビックデータが火を吹いた!(笑)
松原:3曲を比べると、「MOON SIGNAL」がちょっと頭抜いているんですよね。
冨田:要するに、ファンからの支持でもある。
松原:当然ファン以外の人たち、アニメのタイアップの方で聞いている人も「このオープニングはマジでいい!」と思って買ったお客さんもいるでしょうし。
冨田:この曲に関しては、ここで議論したことが答えになっていて。ライブ曲であることと、(売り上げ的な)支持もある、DJの構成的にも割と必殺のタイミングで持ってくれるということもあって、3つ目は「MOON SIGNAL」。スフィアに関しては、<ミュージックレイン>にとっての王道、スタンダードを象徴するようなこの3曲でいかがでしょうか。
色川:異論はございません!
冨田:山を越えた。
ミト:ちょっと待って。スフィアだけで30分(笑)。これ結構やばいと思いますよ。12アーティストですからね。