藤井風「燃えよ」がこれまでの作品と一線を画す理由 楽曲とMVから考察
先月、無観客配信ライブ『"Free" Live 2021』を成功させ、現在はアリーナツアー『HELP EVER ARENA TOUR』を開催中の藤井風。そんななか、新曲「燃えよ」のMVが24日に公開された。今作はGoogle Pixelとのコラボレーションとのことで、全編Google Pixelで撮影されたという。
MVが描くストーリーは、以下の通りだ。
道を歩く藤井風。たまたま見つけた水たまりを覗いてみると、水面に反射した自分がこちらを見て手招きしている。驚いた彼はそこから離れようとするも、腕を掴まれ水の中へと引き摺り込まれてしまう。水中から顔を出すと、そこには草木が生い茂る未知の世界が広がっていた。藤井風は、そこで本能に従うようにして野性的なダンスを踊り始める。突然夢から醒めると、さっきの道で寝ていたことに気付いたが、今度は自らの意志で水の中へとダイブ。再度、血湧き肉躍る激しいダンスを繰り広げる。やがて元いた街に戻ってきた彼は、心なしか気分が軽くなっているようだったーー。
ざっと以上のような物語を辿るこのMV。特筆すべきは映像のクオリティの高さである。冒頭の街中の場面では、近くの建物から遠くに立つビルまで奥行きのあるロケーションでの遠近感もしっかりと表現されていて、さらに無数の泡が広がる水中のシーンにおける深い青色と衣装の朱色のコントラストが幻想的だ。とりわけ上から差し込む光の描写が神秘的で美しい。極彩色の衣装で踊るダンスシーンは映像の色味が独特で、SF映画さながらの雰囲気を醸し出している。ダンサー全員の所作や衣装の細かな動きもくっきりと描出されており、プリミティブな衝動が映像を通して直に伝わってくるようだ。特に屋上からの景色を一望するシーンは解像度の高さを存分に味わえて爽快感があり、全編を通してスマートフォンで撮ったとは思えないハイクオリティな作品に仕上がっている。
さて、この「燃えよ」という曲は、これまでの彼の作品とも一線を画すものだと感じる。先日『報道ステーション』(テレビ朝日系)のインタビューにて「今まで出した曲とは違ってすごい真っすぐな曲」とコメントしていたように、サウンドは力強く、サビで〈燃えよ〉〈もうええよ〉と繰り返すメロディも印象的で、今までの彼の作品にはなかったタイプのキャッチーさがある。自身の楽曲「もうええわ」をもじったような遊び心もさることながら、歌詞全体はいわゆるストレートなエンパワーメントソングであり、聴き手の心を奮い立たせる応援歌として彼のディスコグラフィのなかでも異彩を放っている。同番組で「良い意味での青臭さ、泥臭さ、熱さみたいなものが、もしかしたら今意外と必要とされとんじゃないんかな」とも語っていたが、世の中が求めているものを推察して制作したというその経緯が、彼にこうした特徴的な作風を生ませたようにも思う。