藤井風「燃えよ」がこれまでの作品と一線を画す理由 楽曲とMVから考察

 一方で、このMVにおける水に映った“もう一人の別の自分”というモチーフは非常に藤井風らしいテーマだ。というのも、デビュー曲「何なんw」の解説で彼は“ハイヤーセルフ”という言葉を使って、自分の中にいるもう一人の自分の存在について語っている。その「何なんw」における“自分の中の自分”は、人生において正しい道に進むよう自分自身に向けて説教したり嘆願したりするというのだ。要するに、デビューの時点で彼は自分自身をコントロールする別の自分の存在をテーマに歌っている。

"何なんw”って何なん Kaze talks about “Nan-Nan”

 彼の作品には、こうした考え方を基本とした、自らを制御する目線が常にある。ただし今作「燃えよ」が彼の今までの作品と異なるのは、自分の気持ちに素直に突き進めといった強いメッセージ性の部分である。言いたいことが単純明快で、至極シンプルで分かりやすい。内省的で自制心に満ちた過去作とは打って変わって、「燃えよ」にあるのは解放感あふれるフィジカルな世界だ。何よりダンスシーンの彼の姿は、観る者を、そして彼自身をも鼓舞するかのごとく狂ったように踊っていて清々しい。この曲は、そうした自分の中に閉じ込められた熱いものを解き放つよう手助けしてくれる一曲と言えるだろう。

 このように、今作には彼特有の考え方も散りばめられつつ、時代の要請に従って、新しい方向に舵を振り切った作品だと感じた。と同時に、まさに今“風にのって進む”彼が、ここへ来て一段階ギアを上げたようでワクワクするのだ。

 コロナ禍で自粛生活が長引いたことで、多くの人々が行動力を失いつつあるように思う。物理的にも精神的にも殻にこもりがちな今、この曲が人々の心の奥に閉じ込められたそれぞれの“もう一人の自分”を解放してくれるに違いない。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる