『ミレニアム・ヒーロー』インタビュー
KALMA 畑山悠月、等身大で音楽をかき鳴らす理由 「世界は救えないからこそ誰か1人のヒーローになる」
KALMAがついに1stフルアルバムを完成させた。全14曲入り、タイトルは『ミレニアム・ヒーロー』。素晴らしいタイトルである。世代を引っ張る存在になるとか、世代の中でトップに立ったとか、そういう意味ではもちろんない。これまでの作品同様、このアルバムにもリアルな日常とその中で感じた想いが詰め込まれている。みんなと同じように悩みも迷いもあるけれど、全部引っくるめて等身大のまま、誰かを救うヒーローになりたいんだーーこのアルバムはそう言っているのだ。それこそKALMA、いや、ロックバンドの存在する意味だと思う。まあ、そんな固い話は置いておいても、最高のメロディとアンサンブルの詰まったロックアルバムができ上がったことへの想いを、畑山悠月(Vo/Gt)に語ってもらった。(小川智宏)
アルバムへの自信&自分に対しての“自信のなさ”
ーー1stフルアルバム、完成させての手応えはどうですか?
畑山悠月(以下、畑山):手応えはすごくありますね。本当にいいアルバムができたなと思うし、いろいろな人に届くんじゃないかなと。
ーー素晴らしいアルバムだと思います。『ミレニアム・ヒーロー』というタイトルは最後につけたんですか?
畑山:最後ですね。
ーーいいタイトルですよね。
畑山:僕、曲のタイトルとかアルバムタイトルを決めるのがすごく苦手で。これもベースの(斉藤)陸斗が考えたんですよ。「2000年生まれのヒーローになりたい」みたいな感じでつけたんで、本当にそのままなんですけど、なんか言葉もカッコいいなと思って。最初は自分らで「ヒーロー」って言うのはちょっと違うんじゃないかと思ってたんです。4曲目の「希望の唄」の歌詞には〈ヒーローみたいに僕がいつだって/希望を謳ってく〉っていう歌詞があるんですけど、それは歌の話であって、タイトルから自分で言っちゃうのはどうなんだろうって悩んだんです。でも、周りの人に相談したりもして、やっぱりタイトルに一番合ってるなとも思うし、改めて『ミレニアム・ヒーロー』というタイトルのアルバムとしてこの14曲を聴いたらめちゃくちゃいいなと思いました。
ーー「ヒーロー」っていう言葉をKALMAが掲げるのが新鮮でいいなと思うんです。今までそういうことは言ってこなかったですよね。
畑山:そうですね。自信がある感じというか、確かに今までにはないタイトルではありますよね。本当は自信ないんですけど(笑)。まだCDを出してないときとか、高校卒業したての時の方が変な自信があったけど、曲を出したりツアーをやったりして、少しずつお客さんが増えてきている今の方が逆に自信ないですね。
ーーそれはどうして?
畑山:その時は頑張ればすぐ行けると思ってたけど、やっぱり上には上がいるってわかったし、その人の背中を追っかけても、その人も動いていくからいつまで経っても追い抜けないことが最近わかったりして……好きだったバンドがどんどんライバルに変わっていく感じが最近はあるんです。でも、このアルバムの出来に関してはすごく自信があるし、いろんな人に「こういうバンドやってるんだよ!」って名刺代わりに渡せるような自信作ですね。
ーー見える景色が変わって、気持ちも変わってきたということですよね。実際歌う内容も変わってきたと思うし。
畑山:確かに歌詞の世界観とかも、変わってないようで結構変わったかもしれないですね。昔はもうちょっとローカルな、高校のことだったり、本当に身の周りのことしか歌っていなかったんですけど、今は例えば「希望の唄」だったらアニメの世界観も想像して作るとか、「恋人」は恋人の気持ちになって歌うとか、良い歌詞を書けて成長しているなと思います。
ーー『TEEN TEEN TEEN』の頃はどちらかというと自分自身に向けて歌っていた感じがありましたよね。それは今もあるけど、今作の「親友」とか「恋人」、あとは「パリラリラ」とかも、明確に誰かに向かって歌っている感じがあると思うんです。
畑山:そうですね。それはこれまでやってこなかったんですよ。わかりやすく「これ、誰かに向けて歌っているな」みたいなものではなく、いろんな人に届けたいんだと思っていたので。みんなに届けたいからあえて「君」っていうワードを入れないとか、そういう曲の作り方もしてたんですけど、そうやっちゃうと聴いている側も「これ、誰に向けて歌っているんだろう?」となるかもしれないなって。「恋人」とか「パリラリラ」みたいに、曲を作るときにモデルとなる誰かがいる曲のほうが、聴いている人も、「KALMAが自分に歌ってくれてる」と思えるんだろうなって最近やっとわかりました。誰かに向かって歌った曲のほうが、聴いている人に直接刺さるんだなって。
ーーこのアルバム、そういう曲ばかりですよね。
畑山:はい、そうですね。
「悠月のおかげ」と言ってくれる人のことは救いたい
ーー既発曲も入っていますけど、アルバムの制作という意味ではいつ頃からやっていったんですか?
畑山:一番早かったのは去年の2月〜3月にレコーディングした「夏の奇跡」ですけど、それはアルバムというより「すごい曲を夏に1曲出そう」っていうことで作っていたので、本格的にアルバムを作り始めたのは、去年の11月〜12月ぐらいからですかね。「希望の唄」はアニメタイアップだったので早い段階で作って、それと同時に「さくら」も作っていました。
ーー「希望の唄」は『MUTEKING THE Dancing HERO』(TOKYO MX、テレビ大阪ほか)のエンディングテーマになっていて、それで「ヒーロー」という言葉が出てきているんだと思いますけど、それがアルバム全体のテーマに繋がっていったというのは面白いですね。
畑山:だから本当に奇跡ですよね。アニメの話がなかったら「希望の唄」自体もできなかったし、また違うアルバムになっていたかもしれない。「希望の唄」はアルバムで一番なくらい好きな曲ですね。サビ始まりで、弾き語りで、本当にメロディがいい曲だなって思います。
ーーサビあたり、特にメロディが素晴らしいですよ。スッと出てきたんですか?
畑山:1回メロディが出てきてからはスッとできたんですけど、その「1回出てくるまで」は結構かかりました。
ーーアニメのストーリーにも影響を受けました?
畑山:最初の1~2話を観せてもらって書いたんですけど、どちらかというとアニメの内容よりも、あらすじを企画書で見ただけで結構作れました。歌とか音楽がモチーフのアニメですし、それこそヒーローっていうワードからすぐイメージは湧きました。
ーー確かに作品にすごく寄り添っているというよりも、そこに上手くKALMAの物語を重ねて書いたような気がしますね。〈明日も明後日もずっと 希望の唄を謳っていく〉っていう言葉はKALMAのためにあるような言葉だと思うし。
畑山:そうですね。お話をいただいたときも、「今までとは違うKALMAを表現してください」とかじゃなかったので、今までのKALMAと重なる曲でやれたのはよかったなって思います。
ーー畑山さんの場合、「ヒーロー」って言葉を聞いたときにどういうものを思い浮かべるんですか?
畑山:アニメとか映画とかそういうのじゃなくて……例えばMr.Childrenが好きなんですけど、桜井(和寿)さんは僕のヒーローというよりは憧れで。そういう意味ではヒーローっていうヒーローはあまりいないけど、むしろ自分は「誰かのヒーローになりたい」って思います。
ーーこのアルバムで掲げる「ヒーロー」もまさにそういうものだと思います。超能力もないし、別に世界を救うわけじゃないけど、誰かにとっては救いになるかもしれない存在。
畑山:そうですね。僕はそういうヒーローでいたい。世界は救えないからこそ、誰か1人のヒーローになれればいいなと思います。僕の場合はその方法が音楽なんで、誰かがKALMAの音楽を聴いて、明日頑張れるとか、今日を乗り切れるとか、そういう気持ちになってくれたら嬉しいなって。でも、だからといって「KALMAがお前らのヒーローだ!」みたいな圧では一切なくて。さっきも自信がないって言いましたけど、むしろお客さんから「KALMAはヒーローです」とか「悠月くんの歌で何回も救われました」って言われると、疑っちゃうぐらいなんですよ。いやいやそんなことないよ、むしろ自分がみんなに救われてるよって。みんな「悠月のおかげ」って言ってくれるから、そんなことはないと思いつつも、そういうふうに言ってくれる人のことは救いたいなと思います。
ーーそういう思いは、ずっと前からあるもの?
畑山:音楽を始めたときからあったかもしれない。初めてギターに触ったとき、初めてミスチルを聴いたとき、ライブ映像を観て桜井さんがお客さんを笑顔にしてるところを観たときから、誰かにとってのそういう存在になりたかったですね。