「楽園」インタビュー
Lucky kilimanjaro 熊木幸丸のルーツとは? Macintosh、風来のシレン……クリエイティブに影響与えた4つのアイテムから紐解く
新曲「楽園」は日々の中で生まれるインスタントな享楽
ーーラッキリの音楽にはメッセージ性が強いものも多いし、そもそも、熊木さんが音楽を作るのは、聴き手に考え方や価値観を「提案する」という側面もあったと思うんです。でも今話してくださったような悩みが生じたのは、「提案」や「与える」というスタンスで音楽を作ることに何かしら思うことがあったのでしょうか?
熊木:そうですね。自分が思っていることも結構、変わっていくんです。そのタイミングでその提案をしたことはよかったのかもしれないけど、「そういう提案じゃない方法もあったのかもしれない」って後から気づくこともあったり。「こういう考え方をしたらいいんじゃないか」と聴き手の視点に立って提案し続けていくのって、場合によっては空虚な表現になってしまうこともあるんだなと思います。それだったら、自分の個人的な体験を通じて音楽を表現していく方向にシフトした方が、もっとリアルになるのかなって思うんですよね。もっと「僕」という存在を見せることで、聴いている人に伝えられることがあるんじゃないかなって。でも、「僕」という存在をそのまま見てもらった時に、それによってどうやって踊ってもらうのかっていうのは、難しいことでもあるなと思いますし……この話に関しては、まだ答えは出ていないんです。
ーー曲を経るごとにメッセージの伝え方は柔らかくなってきている気がしますけどね。前回の『踊りの合図』もそうでしたけど、現実の困難さを見つめながらも、ユーモアもちゃんとある。
熊木:いい意味で肩の力は抜けているのかもしれないです。こうやって喋っていると何か考えているように見られると思うんですけど、実際に歌詞を書くときはイージーにいきたくて。肩の力を抜くことに肩の力を入れたくもないし(笑)、そういう部分のバランスの取り方は、自分でも上手くなってきて、自然にできるようになっているような気がします。
ーー新曲「楽園」も、聴き手の肩の力を抜くような力のある曲だと思うんです。
熊木:そうですね。この曲のテーマは「インスタントな楽園」だったんです。前に「350ml Galaxy」という曲を作りましたが、ああいう風に「帰り道の1本のビールみたいなちょっとした幸せが、実は日々を支えているんじゃないか?」という考え方が自分の中にはあって。音楽にしても、インスタントに3分、イヤホンを耳にさせば日々の闘いから解放できるような曲を書こうと思ったんです。このイヤホンをさしている間だけは楽園に行けるっていう。ただ、「今が良ければいい」という感じの刹那性は僕はイヤなんですよ。あくまでも持続する日々の中で生まれる享楽であってほしい。
ーー持続するものの中での快楽というのは、〈本日も再生〉という歌い出しに現れていますよね。日常も、音楽も、繰り返し再生していくものなので。
熊木:はい、音の「再生」もあるし、自分自身の「再生」や「蘇生」もあるし。そういうことを意識してその歌詞は書きました。やっぱり、自分は昔から「持続すること」を大切にしているような気はします。「続けなきゃいけない」とまでは思わないけど、何事も、続けた方が楽しい場所に行けるような気がする。なので、僕は「今が良ければいい」と発想ではなくて、「どんどん、良くしていきたい」という発想の中で音楽を続けていきたいです。
ーー今は、「人間がこのまま続いていった先で、どうなってしまうんだろう?」という不安も少なからずあるような気もしますけどね。「続くことが果たしていいことなのか?」という……。
熊木:そうですね、ディストピア的な世界観の作品も多いし、僕自身、そういう作品を見るとカッコいいと思います。「不安」って広がりやすいんですよね。だからディストピア的な作品が世の中に受けるっていうのもあると思います。逆に「続けること」って退屈なんですよ。「ちゃんとした生活を続けていこう」なんて言ったって、言われた方は退屈だと思う。でも、本当に楽しいことは続けていても飽きないと思いますし、僕は全てが、いい感じに続けばいいなと思います。
ーー「いい感じに」っていうのが、いいですね。
熊木:そうやって自分の人生を楽しくしていきたいと思いますね。なので、僕は「続く」ことは、退屈でも、良しとします(笑)。
ーー「楽園」は、音楽的にはどういったイメージがありましたか? やはり、ここ最近のラッキリは土台のリズムがしっかりしている分、いろいろな要素が入ってきても成立する音楽になっていると思うんですよね。
熊木:それはまさに自分でも感じていて。この1年くらいで、リズムの感覚に関しては悟りを開いたような感じがあるというか(笑)、「これだ!」っていうのを掴んだような気がしていて。だから、アレンジに関してはすごく幅が広がっていると思います。タイラー・ザ・クリエイターがすごく好きで。あの、メロウだけどちゃんとリズムが前に出ていてパンチがある感じを自分でも作りたいなと思ったのが、「楽園」に関しては最初の発想でした。そこから徐々に変わっていったんですけど、どういうふうに古いソウル感を出しながら、今っぽいリズムの太さも出せるのかっていう、そのバランス感をすごく考えて作りましたね。
ーーこれからツアーも始まりますけど、STUDIO COASTでの追加公演も決まりましたね。COASTは残念ながら来年1月で閉館してしまいますが、あの場所はライブハウスというだけでなくてクラブミュージックの現場としても濃い磁場のある場所なので、そこでラッキリのライブを観ることがきるのは楽しみです。ただ、やはりああいう大きな規模のライブハウスがなくなってしまうのは寂しいなって。
熊木:そうですよね。Zepp Tokyo(※2022年1月1日に営業終了)もそう。僕にとってZeppやCOASTといえば海外のアーティストのライブをよく観に行った場所だし、自分にとって、ひとつの大きな憧れとしてずっとあり続けてきた場所なので。なくなっちゃうのは寂しいです。それに、アーティストからすると、ああいう場所がなくなってしまうとライブがしづらくなる部分もありますからね。この先、またそういう場が生まれていってくれたらいいなと思っています。
■リリース情報
デジタルシングル「楽園」
2021年10月6日(水)リリース
各音楽配信サービスで配信中
■ライブ情報
<Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “21 Dancers”>
10月16日(土)札幌・PENNY LANE24 [問]WESS 011-614-9999)
10月24日(日)仙台・Rensa [問]GIP 0570-01-9999)
10月30日(土)名古屋・CLUB QUATTRO [問]JAILHOUSE 052-936-6041)
10月31日(日)大阪・CLUB QUATTRO [問]清水音泉 info@shimizuonsen.com)
11月12日(金)広島・CLUB QUATTRO [問]広島クラブクアトロ 082-542-2280)
11月14日(日)福岡・BEAT STATION [問]キョードー西日本 0570-09-2424)
11月25日(木)東京・Zepp DiverCity(TOKYO) [問]HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999)
<Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “21 Dancers Continue in STUDIO COAST”>
2021年12月10日(金)東京都・USEN STUDIO COAST
チケット料金: 5,000円(税込・ドリンク代別)
企画制作:dreamusic Artist Management,Inc./VINTAGE ROCK std.
TOTAL INFORMATION:VINTAGE ROCK std.
TEL.03-3770-6900[平日12:00-17:00]/WEB http://www.vintage-rock.com/
■Lucky Kilimanjaro オフィシャルサイト
http://luckykilimanjaro.net/