the engy、クールながらも人懐っこい温かみ 生のグルーヴが躍動した2年ぶりの東京ワンマンライブ

the engy、クールながらも人懐っこい温かみ

 「ちゃんと顔を合わせて喋りたくて」とフロアに目を向けると、予定外のMCが始まった。現在も塾講師として仕事をしている山路。その塾の生徒に「授業でまったく笑わない子がいる」そうなのだが(自分の話は結構ウケるのに、と悔しそうに語っている)、その生徒からある日手紙をもらったという。山路先生の授業が楽しみで塾に通っている、と。ロマンティックな話だ。さぞかし塾講師冥利に尽きることだろうが、そんな山路の話を聞きながら、「the engyの音楽もそんな感じがあるよな」と思った。お客さんがまったく笑っていないとか、そういうことではもちろんなくて、彼らの音楽にはそうやって表層的な部分ではないところで、じんわりと聴くものの心をリフトアップさせるような人間味、体温がある気がするのだ。音源ではなくこうしてライブで観ると、その感覚はさらに高まる。音はクールだが、実は熱い。the engyとはそんなバンドである。

 場内の換気を挟んで再開された後半戦。「Sleeping on the bedroom floor」のアッパーなダンスビートが、インターバルで少し緩んだ空気を引き締める。山路もスティックを握ってシンバルを叩き、一気にギアを上げていく。「Under the water」では自在に移り変わるグルーヴがバンドの地力をこれでもかと伝えてくる。そして「まだまだ盛り上がっていけますか」という山路の一言から「We Dance」へ。どっしりと重いビートに、スペーシーなシンセのレイヤーが重なってなんとも言えない浮遊感を描き出す。「Funny ghost」では自然とフロアから手拍子が起き、畳み掛けるようなキメの力強さがさらに空気を高揚させていった。

 ひときわパワフルなファンクネスを繰り出した「Crack」で、「ちょっと遊びますか、みんなで」という山路の言葉を合図に、全員で息を合わせてリズムを感じたあと、「Walk away」では一転してピアノのトラックが聴こえてくる。力強いのに、同時に凛とした静けさを感じる不思議な曲だ。柔らかな歌とコーラスが広がる「Thinking about you」を歌い終えて、山路が「温かい皆さんに会えて嬉しかったです」とひと言。そんな言葉に拍手が起きるなか、本編ラストの「Lay me down」へ。70年代と現代をつなぎ合わせるようなレアな音像が煌びやかに鳴り響き、会場を明るく包み込んだ。

 自称「京都一アンコールを待たせないバンド」ということで、間髪置かずにステージに戻ってきた4人。「続いていく平日は尊い」「1秒も無駄な時間はない」と、『On weekdays』というアルバムに込めた思いを語ってから「She makes me wonder」を披露。山路は昨日落とした財布が高速のサービスエリアで見つかったこと、そして今日車のバッテリーが上がったときに、偶然近くにいた人が整備士の資格を持っていて助けてくれたことを報告する。要約すれば、こんな世界も悪くない、ということだろうか。確かに、この日の彼らのパフォーマンスはそんなことを感じさせてくれるものだった。最後の「Headphones」の余韻が心地よくフロアに広がるなかで、人間らしくて温かい、the engyのショウは幕を下ろした。

the engy オフィシャルサイト

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