「愛のけだもの」 インタビュー

神はサイコロを振らない×キタニタツヤ対談  同世代コラボで描く、“ただれた恋愛”の愚かさと美しさ

 神はサイコロを振らないとキタニタツヤによるコラボレーションシングル「愛のけだもの」が9月17日にリリースされ話題となっている。本作は、アユニ・D(BiSH/PEDRO)とn-buna(ヨルシカ)を迎えてリリースした前作「初恋」に続くコラボ曲。人間の弱さや醜さ、愚かさを徹底的に掘り下げ、その奥底にある「美しさ」に光を当てた歌詞は、まさに神サイとキタニの真骨頂とも言えるもの。

 ファンキーかつグルーヴィーなバンドサウンドに、艶やかでどこか切ない柳田周作(Vo)とキタニの歌声が融合することによって、これまでの神サイにはありそうでなかったサウンドスケープを構築することに成功した。様々な名義や形態を使い分けながらその表現領域を広げるキタニと、愚直なほどにバンドサウンドにこだわり続ける神サイ。そんな二組のケミストリーはどのようにして生み出されたのか。その制作の裏側に迫った。(黒田隆憲)

「なぜか全裸の俺のケツをキタニが叩いてて(笑)」(柳田)

神はサイコロを振らない × キタニタツヤ「愛のけだもの」【Official Lyric Video】

ーーもともとキタニさんと吉田さんは、プライベートでも交流があったそうですね。

キタニタツヤ(以下、キタニ):共通の知り合いの誕生会が数年前に渋谷であって、そこで挨拶したのが最初だったのかな。そこからたまに飲み会などで顔を合わせるようになったんです。でも実を言うと、神サイについては結構前からチェックしていたんですよ。「秋明菊」(2016年)がリリースされて、ネットでも名前をよく見るようになった頃……あの時はまだ普通に大学生だよね?

柳田周作(以下、柳田):そうだね、二十歳とかそのくらいだったと思う。

キタニ:その頃は俺もオルタナやポストロックっぽいことをバンドでやっていて、同じようなアプローチで頭ひとつ抜けた存在になっていた神サイがものすごく気になっていた。そこから少しずつギターがヘヴィになって、サウンドもどんどん変化していく過程ももちろんチェックしていたし、そうこうしているうちに「夜永唄」(2019年)のポップ路線で一気に注目されていくのをムカつきながら見ていましたね(笑)。

柳田:(笑)。俺たちもキタニのことは前から気になっていたし、マネージャーとも「こんな方向性すごく良いよね!」っていうような、他のアーティストさんの楽曲を掘った会話をするんですが、その時の参考が「人間みたいね」とか、キタニの曲で(笑)。「いや、ファンク作れとか言われても無理っすよ」って返してたんだけど。

吉田喜一(以下、吉田):でも、キタニも最初ポストロックっぽいアプローチもしていたことを後から知って、「俺らと一緒じゃん!」と思ってた。

キタニ:もともと憧れていた音楽とかはきっと一緒だったんだよね。途中から分岐して違うジャンルを掘っていくことになるけど、それを経て神サイも俺も「ポップスを目指そう」と思ってまた通じ合っているのが本当に感慨深い。

ーー今こうしてやりとりを側から見ていると、すでにかなり打ち解けている感じですね。

柳田:実際に会ったのは、今日で5回目くらいなんですけどね(笑)。もはや10年くらいの付き合いみたいな気持ちになっているのがすごく不思議な感覚。最初はファミレスでキタニと吉田と、3人で顔合わせしたんだよね。

キタニ:その時に二人から「コラボを通じて新たな刺激がバンドに欲しい」みたいなことを言われたのを覚えてる。ちょうど俺も、コラボ作を4カ月連続で配信する企画を少し前にやっていたので、「その気持ち、わかるわあ」って思いました(笑)。自分がゲストで呼ばれるパターンは今まであまりなかったし、神サイとなら俺もやりたかったから二つ返事で引き受けましたね。

柳田:2回目の顔合わせは俺の家だったんだよね。3人でいろんな音楽を聴きながら「どういう方向性でやっていく?」みたいな話をして。

キタニ:たこ焼きをつまみながら一緒にYouTubeとか見てね。

柳田:気がついたら、いつの間にか「音楽を聴く会」から「音楽をつくる会」に変わっていた。なぜか全裸の俺のケツをキタニが叩いてて(笑)。

吉田:俺、尻を叩く音で作ったビートに合わせてギターを弾いたの生まれて初めてだよ。

一同:(笑)。

柳田:とにかくそれが、めちゃくちゃ楽しかったんです。友だちと何となく部屋で音楽の話をしてたらそのまま曲が生まれた……みたいな、そういうフリーな感じは今までになかったので。

キタニ:まあ、あの時の音源は丸々ボツになったけどね(笑)。

「キタニくんはものすごく律儀で丁寧な人」(桐木)

神はサイコロを振らない

ーー実際の曲作りはどのように行われたのですか?

キタニ:さっき柳田が言っていたように、「キタニのファンクっぽい要素は神サイにはないから、ぜひとも取り入れたい」みたいな話は聞いていたし、「エロい曲が作りたい」というリクエストもあったから、それを踏まえてまずは自宅でデモ作りから始めました。サビだけメロディがついた1コーラスのオケを3パターンくらい作って丸ごと柳田に投げて。

柳田:それをもとに、今度は俺がAメロとBメロの歌詞を考えて。

キタニ:ある意味、ヒップホップの作り方にも似ていますよね。そういうやりとりを何度かしたあと、僕の作業場に柳田と吉田を呼んで。柳田と二人でひたすらメロディバトルを繰り広げました(笑)。オケを流しながら順番にメロディを乗せて、良かったら「それ採用!」みたいな感じでブラッシュアップしていくという。

柳田:それもすごく新鮮だった。前回ヨルシカのn-bunaさんとコラボした時は、n-bunaさんがオケとメロを作って、そこに俺が歌詞をはめ込むという作業だったので、こんなふうに膝を突き合わせてメロディから一緒に作り上げていくのは初めての体験だったし。

キタニ:何ていうか、結成したばかりのバンドが「一緒に音を出すだけで楽しい」と思っているうちに1曲できちゃったみたいな感じ。サビの前半のメロディが出てきたときとか、ものすごく興奮して「よっしゃあ!」って叫んじゃったよね。

柳田:そうそう! 「これ、一度聴いたら絶対記憶に残るやん!」て。

キタニ:曲の途中の展開メロディは、メロディバトルで柳田がサビ用に考えたメロディを持ってきたりとかして。

柳田:今回、キーの設定もこだわったよね。サビはファルセットでどこまで高音を出せるのか、限界までチャレンジしてみたこともあった。結局それは却下されたんですけど(笑)、いろいろと試行錯誤した末にできた曲です。

ーーレコーディングはどんな雰囲気でしたか?

黒川亮介(以下、黒川):今までファンク系の曲とかそんなに叩いたことなかったので、プリプロの時にキタニくんがスタジオへ遊びにきてくれて、僕らの演奏に合わせて踊ってくれているのがすごく自信につながりました。

キタニ:大まかなリズムパターンや幾つかのフィルだけ指定して、あとは全て亮介くんにお任せしてたんですけど、思いついたフィルのパターンを事前にいくつもDAWに打ち込んで、「どれがいいと思う?」と送ってきたりして。本当に真面目でいいドラマーだなと感動した。

ーー同じベーシストとして、桐木(岳貢)さんのベースプレイはどう思いましたか?

キタニ:今回、デモ音源から一番変わったのがベースパターンだったんですよ。ベースソロとか、デモでは適当に打ち込んであったのを、ガクさん(桐木)ならではのフレーズにブラッシュアップしてくれていて。あのソロ、すごくいいですよね?

桐木岳貢(以下、桐木):レコーディングではだいぶ手こずったけどね(笑)。キタニくんから「こんな感じで弾いてほしい」というオーダー表みたいなものが、長い手紙みたいな形で届いたんです。まだその時は直接お会いしてなかったんですけど、ものすごく律儀で丁寧な人だなと思って感激しました。

キタニ:照れくさいな(笑)。今回、メンバーそれぞれに「見せ場」を持たせたいというのが裏テーマとしてあったんですよね。

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