teto『愛と例話』&Tempalay『あびばのんのん』特別対談
teto 小池貞利×Tempalay 小原綾斗 特別対談 同世代の2人が語る、カウンターカルチャーとしてのバンド美学
「バンドという偶像にものすごく救われてきた」(小原)
一一話題は変わりますけど、お二人は音楽の原点が同じだったりするんですよね。銀杏BOYZが入り口だったりとか。
小原:うん、銀杏BOYZ。そもそもだけど、小池くんってタメだよね?
小池:同い年。
小原:1990年生まれだよね。だから中学校2年生の時なんですよ、あの銀杏のアルバム(2枚同時発売された『DOOR』『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』)が。中2ってちょうど人格形成される時期じゃないですか。変革期というか。その時に二人ともあのアルバムを食らってるんじゃないかな。
小池:あと、他にも好きなカルチャーが近いというか。(小原が着ている北野武のTシャツを指して)そのTシャツも最高だし、たぶんダウンタウンとかもめちゃめちゃ影響受けてるんだろうなって。
小原:ふふふ。うん。
小池:俺、バンド始めたのも遅かったし、同い年ってあんまりいなくて。そうなると好きなものが近い人が意外といない。それこそ『ごっつ(ダウンタウンのごっつええ感じ)』とか、『HITOSI MATUMOTO VISUALBUM』とかめちゃめちゃハマって見てたし、そういう刺激的なものがないと音楽って絶対作れないと思ってる。
小原:そうね。僕もそれこそ『VISUALBUM』とかおどろおどろしいけど、気持ち悪い美しさって大好き。ただ、中学生の時ってそれを共有するのが恥ずかしいというか、正義だとは思えなかったんですよ。だから隠してた。表で遊ぶ友達と、自分の家で引きこもって遊ぶ趣味は別で。
小池:わかる。そうやって掘っていく田舎のハングリーさってあるよね。俺は群馬の田舎で育ったし、音楽とか映画、漫画、バラエティ番組とか、なんとかついていくのに必死だった。でもいざ東京でバンド始めたら、そういう人が意外といなかった(笑)。だから出会えて嬉しいんです。
小原:掘るのがお互い好きだったんだろうね。『ごっつ』とか、本来もうちょっと上の世代のものやったんですよ。それこそ「あびばのんのん」(ザ・ドリフターズ「いい湯だな(ビバノン・ロック)」より)もピンと来る世代ではないし。
一一当時はネット動画もないはずで。どうやってそういったものに辿り着くんですか?
小原:ブックオフ!
小池:めちゃブックオフ! 音楽も漫画も全部ブックオフ。
小原:自分の好きなアーティストが聴いてきたもの、見てきたものとか、全部ブックオフの250円コーナーからで。千円札握りしめて行ってましたよ(笑)。だってディスクユニオンとか地元になかったでしょ?
小池:ない、ない。タワーレコードも1時間かけて行かないとなかった。
小原:俺もそうやった。タワレコなんて、言うなれば高級品じゃないですか、1枚1500円もするみたいな。だから名盤がね、買えない(笑)。250円コーナーでジャケ買いばっかりでした。
一一お二人は最後のCD世代なんですかね。音楽を取り巻く状況が激変していく中でバンドを続けていると、どんなことを感じるものですか。
小原:まぁ効率悪いよね、バンドは。
小池:うん。ほんと効率悪い。ただ、やっぱりロックとかバンドミュージックが一番カッコいいのは、生で、その人間力を出せるってことだから。特にライブは一発勝負で、それが決まってカッコ良くないわけがない。打ち込みだと「そりゃぁカッコいいだろうね」って思っちゃうんですよ。そうじゃない人間のストーリーとか生演奏に美学を感じるから、もう効率悪いのはしょうがない。
小原:効率の悪い美しさもあるもんね。それこそレコードなんて七面倒くさいし、場所も取るし、でもだからこそ夢中になれるっていう美しさ。ソロだけどバンドプロジェクトみたいな人もいるじゃないですか。ああいうのに憧れはしないんですよね。自分はバンドという偶像にものすごく救われてきたので。だから俺らはギリギリバンドの形をしてんなぁと思ってる。今、tetoってメンバー二人抜けたんだよね。正式に誰か入った?
小池:ううん、まだ。
小原:そっか。俺はバンドっていう形態と、ひとりもメンバーが欠けてない状況に憧れる。ひとり欠けたら辞めちゃうTHE BLUE HEARTSみたいな終わり方にも憧れるし、逆にレッチリ(Red Hot Chili Peppers)みたいに意地でも続ける形にも憧れるし。バンドはやっぱりロマンありますよ。今の時代の新しい子に「バンド組みたい」と思って欲しいですもん。今はパソコン一台あったらDTMで誰でも音楽作れるし、ネットで活動もできちゃうけど。
小池:あとライブハウスって、若者文化でもあると思ってる。16才くらいの若い子で、毎日のように同じバンドばっかり聴いてる子がいたとして、目の前にそのバンドがいて鼓動がもう鳴り止まないってなったら、そりゃモッシュもダイブも起こるよなって思う。今は(コロナ禍で)できないけど、それが1個の居場所になるんだから、文化として続いていって欲しいですよね。
teto&Tempalay、それぞれの新作から思い起こされる情景
小池:あと話変わるけど、Tempalayの新譜(『あびばのんのん』)が素晴らしくて。
小原:ありがとう。令和お風呂ソングね。
小池:その話を聞きたくて。これ、「『菊次郎の夏』じゃん!」って思った。
小原:あぁ、それに関していうと、結構そういう情景を重んじるし、心象が見える音が作りたいと思ってる。それはtetoの新譜(『愛と例話』)にも感じることだけど……なんて言うんだろうね。「あの頃の夏」なんだよ、一言で言うと。
小池:そうそう。本当に情景が浮かんだ。俺、実家の風呂が狭くて汚くて、たまに夏の日曜日とかにみんなで近くの銭湯に車で行ったんですよ。おじい、おばあ、母親、俺、姉の5人で。そこに向かう時、車の窓を開けて風が入ってくる感じと、坂を登った時に見えた夕焼けの感じと、風呂浴びた後に食べるハーゲンダッツのクッキー&クリーム。『あびばのんのん』聴いて、もう全部蘇ってきたし「うわ、これはもうヒューマン映画だ!」と思った。それまでのTempalayって、なんか手塚治虫の短編集というか、SFみたいなイメージだったけど、それが急にヒューマン映画になった感じ。
小原:確かに、幼少期の心象風景みたいなものって、創作していくと自分でもどんどん呼び起こされていくところがあって。tetoにもたぶん、「“あの夏”を超えたい。でも絶対超えられない」みたいな感覚があると思う。
小池:うんうん。わかる。
小原:それこそハーゲンダッツなんてどこで買っても一緒だし、その坂も、たぶん今行っても“あの頃”を超えられないんです。そういうことなんだよね、“あの夏”って。でも作品ならその景色を作ることができる。すごいなって思いますよね。
一一たぶん“あの夏”って、みんな持っていますよね。それが本当にあったことなのかって言われたら曖昧だったりするけど。
小原:そう。最近思うんですけど、感動ってどんどん枯渇していくんですよ。だって初めての体験は超えられないから。俺、花火が好きなんだけど、去年熱海で花火を見ても、感動できなかったんですよね。なのに、隣のベランダから見えた、たぶん花火を初めて見たであろう子供の横顔に本気で胸が締め付けられたわけですよ。感動ってこうやって循環していくというか、継承されていく。もう伝達なんだなと思って。だから自分が音楽を作る理由も最近やっと明確になってきた。人に伝えることで、誰かに感動してもらうことで感動する。そういうタームに入ってるのかなって思いますね。
一一そこでも感動が循環しているわけですね。ちなみに小原さん、tetoの『愛と例話』にはどんな感想を持ちました?
小原:さっき言った通り、情景とか心象みたいなところが似ているなって。そこを呼び起こされる音。
小池:お互い田舎育ちっていうのもあるかもしれない。
一一けど、そういった環境よりは、ロマンチストなところが一番似ている気がします。
小原:そうだと思う、絶対。俺、胸が締め付けられる、ギュッとなる感覚、ものすごく大事にしていて。そういうのって海外のサウンドを模しただけの、取ってつけたようなメロディにはまったく感じないんですよ。そういう意味でtetoはちゃんと地に足が着いてる。自分を理解してるというか、その心象体験を大事にしてる。それを大事にできる人はずっと作品を作れると思うんですよね。それを超えたい、“あの夏”を超えたいって気持ちがある限り。
■リリース情報1
teto『愛と例話』
2021年8月4日(水)リリース
¥2,970(税込)
<収録曲>
1.宣誓
2.もしもし?もしもさぁ
3.とめられない
4.光とロマン
5.夏百物語
6.メアリー、無理しないで
7.遊泳地
8.燕
9.invisible
10.I just want to dive in REIWA!!
■リリース情報2
Tempalay『あびばのんのん』
2021年9月8日(木)
・通常盤(CD):¥1,430(税込)
・完全生産限定盤<ばばんば盤/CD+グッズ(お風呂桶・アヒルちゃん・温泉タオル)>:¥5,940(税込)
<収録曲>
01.とん
02.あびばのんのん
03.甘蕉
04.あびばのんのん 料亭Ver.