Official髭男dism『Editorial』というアルバムの正体ーーヒゲダンの新たな試行錯誤が詰まったマスターピース

 Official髭男dismがメジャー2ndアルバム、通算3作目となるフルアルバム『Editorial』を8月18日にリリースした。

 2020年発表の「I LOVE...」から今年2月の「Cry Baby」まで多彩なシングルを収録し、しかもそれをアルバムというひと連なりの作品に纏め上げることを可能にしたのはアルバム曲も含めて、いずれ劣らぬクオリティあってこそだ。だが、第一聴で大げさではなく震撼したのは「ここまで表現者の内面を吐露して大丈夫なのか」という藤原聡(Vo/Pf)の加齢や死生観をビビッドに綴る勇気、腹の据わり方だった。しかもタイトルチューン「Editorial」は藤原のボーカルをデジタルクワイアで重ねたアカペラ。どこまでも内面に潜って真摯な表現をしても、何か嘘っぽいと歌う。だが、恐らくそれは生きて音楽を作り続ける以上、付きまとう幸せな矛盾なのだとも歌う。もちろんJ-POPの王道そのものの天井を突き破るという形容も音楽的に正解だが、彼らほどのトップランカーが最新作のド頭で、「頑張ってますけど、これが絶対の正解なんてこれっぽっちも思ってないんです、実は」と告白しているようなものなのだ。だが、これは現代のアーティストとして祝福すべき深化と言えるだろう。

「Editorial」

 さらに先行配信されたアルバムのリードトラック「アポトーシス」の主題である、先述した死生観すら窺える、限られた人間の命の営みを地球のプログラム細胞死になぞらえて描いたテーマの意外性と、日常的な語り口の兼ね合いに鳥肌が立つ。前半に柔らかくもあり、少しノイズ混じりなエレクトロニックなトラック的なサウンドを用い、SEにはそれこそ命の芽吹きや細胞分裂を思わせる音も聴こえる。それが後半でグッと生身のサウンドに転換し、エンディングに向かう間奏部分では地面に落ちた枯れ葉が土に還り、そこから種が育ち新しい季節を迎える様を疑似体験するようなアレンジに圧倒される。しかし、この歌の主人公はいつか迎える最愛の人(たち)との最期の心構えはまだない。ただ、いつかは終わる命を畏れだけではなく心に抱くことは温かく、少し寂しい。

「アポトーシス」

 「アポトーシス」が言葉もサウンドもアレンジも一歩踏み込んだ表現であり、ヒゲダンが恐ろしい速度で衒いなく伝えたいことを伝えている証左だとすると、その予兆は本作の要とも言うべき既発曲「Laughter」にすでに表れていたと思う。この曲の背景に、バンドが山陰から上京する際に、自分たちの可能性や心底やりたいことを目指したい気持ちと、必ずしも成功するかどうかわからない逡巡を経たことは過去のインタビューで語られている。だが、この曲もただ自由を獲得するために檻を壊して、さぁ前へという単純なものではないことに気づく。〈たとえ紛い物だったとしても/自分にとっての正しさを/創造してみるよ/大事にするよ〉なのだ。これはどちらかと言えば「Editorial」につながる心象かもしれないが、サウンド的にも集中力を途切れさせず聴かせる大曲をノンジャンルでものにして行ったプロセスという意味では「アポトーシス」と「Laughter」はヒゲダンのネクストフェーズを代表する本作の2トップだろう。

Official髭男dism - Laughter[Official Video]

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