田中将大、佐藤輝明、柳田悠岐ら侍ジャパンの中心はモノノフ? ももいろクローバーZ、スポーツ界隈で巻き起こす旋風

新日本プロレスの若手育成も参考にグループを制作

 ももクロがスポーツと親和性を持つようになった大きな要因は、プロデューサーの川上アキラが大のプロレスファンであることだろう。路上ライブからスタートし、『NHK紅白歌合戦』出場や国立競技場での公演といった大目標に向けて数々の試練に挑むなど、ストーリー性を重視して活動が展開された。それらの「ドラマ」が、プロレスを参考にしていたことはよく知られる話だ。川上は6月13日、TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』に出演した際も、プロレス流で時にはメンバーを追い込みながら、各自の成長を促したと話している。

 川上は自著『ももクロ流 5人へ伝えたこと 5人から教わったこと』(日経BP社/2014年)でも、新日本プロレスの若手レスラー(ヤングライオン)の育成術を重ね合わせ、「ヤングライオンたちは、下積みの時期を経て、どんな試合でも組み立てられるプロレスラーに育っていく。それと同じように『等身大を見せる』ももクロから、『エンタテインメントを見せる』ももクロに成長していく、というイメージは最初からもっていました」と語っている。

 ももいろクローバーZ公式記者・小島和宏も、著書『ももクロ 非常識ビジネス学』(ワニブックス/2018年)のなかでももクロのスポーツ的要素について「(ももクロは)プロレスラーの『道場』での鍛錬もしっかり学び取っている。生歌を披露するために、連日レッスンやボイトレにたっぷりと時間を費やすあたりは、プロレスにおける『道場論』以外の何ものでもない。すなわち根っこの部分は純然たるスポーツなのだ」と指摘。そういった部分が、アスリートたちの人気の高さに結びついていると分析している。

 ももクロは、「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」という猪木イズムを継承するように、どんな相手とも闘う。対バンでは、神聖かまってちゃんらロックバンドともやりあった。なかでも名物イベントとして人気だったのが、有野晋哉(よゐこ)、デーブ・スペクター、野沢雅子ら異色ゲストを招いて繰り広げたトークバトル『試練の七番勝負』シリーズだ。これはジャンボ鶴田の『試練の十番勝負』、田上明の『炎の七番勝負』、小橋建太の『試練の七番勝負』などをモチーフとしている。

 川上は『ももクロ流』で「期待されている若手レスラーがタイプの違う先輩レスラーに挑んでいく。反則ばかりする悪役レスラーと戦ったと思うと、職人技がすごいテクニシャンと戦ったりするのです。そこには『見世物』としての目線と『教育』『育成』の目線、両方があります。それはももクロの七番勝負も同じです」とし、各界のエキスパートと接点を持つことで、「言われたことをやるアイドル」ではなく「自分で考えるアイドル」になってもらいたいという願望を込めたと記述。

 また、ももクロのステージ演出を手掛ける佐々木敦規も『K-1』中継などを担当してきた演出家である。川上は、佐々木に仕事を依頼した経緯のひとつとして、「プロレス&格闘技が共通言語として話せる、という点も大きかった」と明かしている。

「Chai Maxx」の武藤敬司ポーズ、アルバムタイトルの天龍リスペクト

 ももクロは作品としても、プロレス&格闘技の要素を多数引用している。「Chai Maxx」(2011年)では武藤敬司選手の「プロレスLOVE」のポージングや、K-1などの膝蹴りを思わせる仕草が盛り込まれ、MVも立ち技格闘技の試合風。『Z伝説〜終わりなき革命〜』(2011年)のリリースイベントでは、百田夏菜子が液化炭酸ガス(CO2)噴射装置付きの被り物をして「カナコ・ベアダー」として登場したが、これはビッグバン・ベイダーへのオマージュだ。またアルバム『バトル アンド ロマンス』(2011年)のタイトルは、天龍源一郎が立ち上げたプロレス団体「WAR(Wrestle And Romance)」を由来としている。

 ももクロのおもしろさは、このようにいろんなスポーツの要素をサンプリングすることで、「自分は元ネタを知っている」とマニア心を上手にくすぐる点である。そして、そのことを誰かに言いたくなる。玉井詩織が言い放った長州力の名言の引用「ここが、この場所が、アイドル界のど真ん中だ」は好例だ。2010年前後は動画コンテンツ、SNSが徐々に流行り始めていたこともあり、それが口コミで広がりやすくなった。時代の流れも追い風となったのだ。

 いろんなジャンルと交じり合うハイブリッド性も、ほかのアイドルにはない魅力となった。これまでもスポーツ競技とタイアップするアイドルはいたが、プロデュース、企画、さらに精神性にまで組み込んで活動につなげるアイドルは見当たらなかった。「女性アイドルは可愛らしいもの」という基盤をちゃんとキープしながら、汗臭さ、肉体疲労、傷といった運動特有のものも想起させることで、アイドルとしての意外性を生み出した。何よりも、そういった川上プロデューサーらの思惑を体現したメンバーのポテンシャルがすごい。

 プロ野球をはじめスポーツ界で現在も起こり続けているモノノフ旋風。前述した佐藤輝明選手など、さまざまな競技やプレイヤーとのコラボも今後期待したい。

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