2021.07.15 18:00

GRAPEVINE、濃密に音楽と向き合うバンドの底力　『新しい果実』の楽曲が彩った“洗練されたライブ空間”

文＝今井智子、写真＝Taku Fujii

　やはり先行配信された「Gifted」はヒリつく長いイントロから印象的なライティングの中で演奏され、ジワリと歌が染み込んでくるようだった。曲が進むほどに田中の歌がドラマチックに広がり、〈私の声なんて聞こえないか〉という歌詞とは裏腹にハーフ・ファルセットで〈神様が匙投げた〉と歌うパートが刺さってきた。やはり『新しい果実』という作品はただものではないのではないかと、ライブで聴くほどに思いたくなる。そんな余韻を振り払うように田中が話し出した。

「こういう感じで、新しいアルバムの曲をやっていますが、現状のところツアーが続けてこれて、非常にありがたかったです。果たして9月からどうなることやら。皆さん期待しといていただきたいと思います」

　田中らしい皮肉の効いた言い方だが、朝令暮改のニュースが流れる日々に翻弄されている現状では9月がどんな状況か予測もつかない。

「9月は、LINE CUBE SHIBUYA…...違う？　合ってる？　皆さんが声出さないんで自分の言ってることが間違ってるんだか合ってるんだか、不安になってしまいます（笑）」

　マスク着用で声を出せない観客たちとのコミュニケーションは難しい。「心の声は届いていますよ」といった優しい言葉をかけるアーティストもいるけれど、もどかしさを田中は率直に言葉にした。そんな思いが却って歌にも演奏にも集中度を高めることになっていたのかもしれない。それは見ている側も同様で、もどかしいからこそ演奏されている曲にガッツリ向き合い受け止めようとしていた気がする。「なかなかこういうこともないですから、いい経験をさせていただいております」と田中が続けたのも腑に落ちるというものだ。日々刻々と状況が変化している中で彼らの音楽を共有できていることを「いい経験」と捉えるのも悪くない。

　この日演奏したのは約20曲。久々に演奏した曲もあり、聴き応えのあるセットリストだった。振り返れば初期の曲も今に引きつけているが、やはり最新作の曲は構成やアレンジが洗練されていることが際立ち、立体的なサウンドスケープを描き出していた。シンプルに、だが濃厚に音楽と向き合っているGRAPEVINEというバンドが持つ底力が、この夜のライブで発揮されていたと思う。先日発表された札幌、東京、大阪で行われる『GRAPEVINE tour 2021 Extra Show』を含め、9月のツアー後半戦（6カ所7公演）が開催され、彼らと再会するのが一層楽しみになった。