SUPER BEAVER、音楽を通して“あなた”に届けた「アイラヴユー」 バンドとファンの思いが交差したツアー最終公演

SUPER BEAVERが届けた“愛”

柳沢亮太

 15年前に音楽コンテスト『TEENS’ MUSIC FESTIVAL 2006』全国大会でここ“渋谷公会堂”(当時は渋谷C.C.Lemonホール)のステージに立ったときのことを振り返りながら「あのとき、誰かの何かになりたいと思った」と語る渋谷。その「何か」がなんとなく見えてきた、と言いながら届けたのは「自慢になりたい」だ。この曲で歌われる〈僕はあなたの 自慢になりたい〉というフレーズの「自慢」とは、そのまま「夢」とか「希望」とか「ヒーロー」とか、あるいは「生きる意味」みたいなものに言い換えられる言葉だと思うが、今のSUPER BEAVERが体現するのはまさにそういうものだと思う。皮肉なものだが、こうして面と向かって音楽で会話をすること自体がこれまでとは違う価値を持つようになってしまった時代において、彼らは自分たちが信じて貫いてきた信念の正しさのようなものを改めて痛感しているのだろう。

上杉研太
上杉研太

 キラキラと輝く電飾と柳沢によるジャキジャキとしたギターリフがどこまでも楽曲のスケールを広げていった「予感」から「正攻法」「突破口」とその信念のど真ん中を射抜くような楽曲をメンバー全員で絶唱しながらたたみかけると、渋谷がメンバーにそれぞれ話を振る。上杉は「今日生きているっていうことをひとりひとりと共有できているのが嬉しい」と喜びを口にし、柳沢は「『アイラヴユー』はあなたがいてできたアルバム」だと改めてバンドの現在地を言葉にして見せる。渋谷が「かわい子ちゃん」と紹介した藤原は「また遊びにきてネ! よろしくネ!」とおちゃらけてみせるが、そこにもまた、久しぶりのツアーを回ってきて手にした興奮と感動が滲んでいるように聞こえる(いいように捉えすぎかもしれないけど)。

藤原"33才"広明

 〈アイラヴユーが歌いたい 愛してる 愛してる〉。驚くほど率直な言葉が歌われる「アイラヴユー」で渋谷は何度も何度も客席を指差しながら声を張り上げる。リズムに合わせたアクションも、一瞬のタメやキメの息を呑むようなピッタリ具合も、ロックバンドの美しさをこれでもかと見せつけてくる。ファンもメンバーもひっくるめていろいろな矢印をもった「アイラヴユー」が、今のSUPER BEAVERの旗印だ。星空のようなイルミネーションがLINE CUBE SHIBUYAを彩った「東京流星群」でメンバー全員のコーラスがでっかく響き渡ると、ライブはいよいよクライマックスだ。

 「マスクを取った顔が見たい。あなたの声が聞きたい。でもできないから、その日まで音楽をやめない。それぞれがんばってまた会いましょう。『一緒にがんばろうぜ』って言わないのは、信頼しているからです」。そんな言葉から、渋谷が無音状態のなかオフマイクで歌い始めたのは「時代」。柳沢が強い思いとともに書いたであろう〈時代とはあなただ〉という言葉が指し示すのは、コロナがどうとか、世の中がどうとかに関係なく、バンドと「あなた」の関係性がすべての出発点となる、ということだ。どこまでもシンプルな「自分とあなた」の関係、つまり「愛」である。

 そして、SUPER BEAVERと僕たちのそんな物語はここからも続いていく。本編最後に披露された新曲「名前を呼ぶよ」(このライブ終了直後となる6月25日0時から先行配信が開始された)はそのことを力強く教えてくれた。アンコールを前に次のツアー『SUPER BEAVER 都会のラクダSP 行脚 〜ラクダフロムライブハウス〜【第三弾】』とファンクラブ限定ライブのスケジュールも発表され、ますます期待が高まるなか、ステージに戻ってきた4人が鳴らしたのは「愛しい人」。やはり徹頭徹尾「愛」に満ちた一夜。ロックバンドの喜びを全力で表現するようなパンクチューン「さよなら絶望」を置き土産に、SUPER BEAVERはその先の未来に向かってまた歩き始めた。

■小川智宏
元『ROCKIN’ON JAPAN』副編集長。現在はキュレーションアプリ「antenna*」編集長を務めるかたわら、音楽ライターとして雑誌・webメディアなどで幅広く執筆。

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