花譜ライブシリーズ『不可解』や新ユニットV.W.Pの根幹にある“創作への情熱” <KAMITSUBAKI STUDIO>統合Pインタビュー

KAMITSUBAKI STUDIO統合Pインタビュー

“不可解”は<KAMITSUBAKI STUDIO>や花譜そのもの

花譜 #69「まほう feat.理芽」【オリジナルMV「不可解弐Q1」Live Ver.】

ーー今回、なぜ“REBUILDING”と題し、『不可解弐』をフィジカルライブとして再構築しようと思ったのですか?

P:当初、『不可解弐』はフィジカルライブとして2020年に開催予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、やむなくバーチャルライブに変更、『Q1』と『Q2』のシリーズ構成にした経緯があります。結果的に両公演から得るものも非常に大きかったですが、そもそもシリーズ化する想定ではなかったのと、リアル会場を使ったフィジカルライブとしてきちんと完結したいという想いから『REBUILDING』を企画しました。再構築する上で内容は『Q1』『Q2』からアップデートしていきたいと思っていましたし、バーチャルライブの経験から新たにやるべきことも産まれたので、花譜本人とも話し合った上で『Q3』という新たな要素もプラスして開催しよう、と。

ーー『不可解弐REBUILDING』を行う上でクラウドファンディングを実施し、8,000万円を超える支援金が集まりました。1stワンマンライブ『不可解』でもクラウドファンディングは行っていましたが、それを超える規模感になりましたね。

P:複数公演を行う場合、作り込んだひとつの公演を部分的に変えて繰り返し開催するという方法もあると思うのですが、『REBUILDING』の場合は分断された公演を再構築し更に新たに1公演追加するという性質上、単純計算で3公演分の制作費がかかるんです。これは<KAMITSUBAKI STUDIO>としても過去最大の規模感になるため、スケジュールやコストの面でも今まで以上に苦しい状況下の中で制作を進めていきました。コロナ禍という特殊な状況下で複雑化してしまった部分もあるので、今回に限っては仕方がないと思う反面、周りのスタッフにも迷惑をかけてしまっているのがすごく罪悪感を感じるというか、心苦しいです。ただ、クラウドファンディングを行う目的としては、みなさんにライブ制作をバックアップしていただく側面もありますが、何よりもエンドロールにファンの方々の名前を入れることで、ある種の共通体験を作れることが一番大きいんです。それに『不可解』や『不可解(再)』はクオリティ面で納得いかなかった部分もあったので、『REBUILDING』では表現方法をいちから見直し、根本的にやり方を変えました。前回以上のコストはかかりましたが、ある意味、別物として捉えていただけると思いますし、観測者(花譜ファンの総称)の方々にも喜んでもらえるものにはなるのではと思います。

ーーそもそもバーチャルアーティストは一般的なアーティストと比べて、技術や設備面においてライブ制作に高いコストがかかると思います。花譜さんのフィジカルライブは1stワンマンから2度目となりますが、どういう部分にポイントを置いて制作していますか?

P:ライブ制作にあたって大事にしていることは2つあります。ひとつは『不可解』というタイトルを掲げている以上、なるべく実験的であること。端的に言えば、ありがちな表現はしたくないと思っています。ただ、実験的なものも回数を重ねれば王道になってしまうので、僕らはR&D(研究開発)という言葉を使うのですが、常に新しい体験を提供するという挑戦の姿勢はずっと持ち続けています。もうひとつは、花譜という一人の少女の歌の良さをストレートに届けるにはどうすればいいのか、その両軸ですね。実験性と純粋な歌の良さを伝える表現を追い求めるのは時には難しいのですが、フォーマット化されてしまう部分は抗っていきたいですし、花譜本人の「良さ」を何倍にも良い感じに届けることで観測者の方々にもより楽しんでもらえるのではないかと思っています。

ーーPIEDPIPERさん自身、リアルな現場に対するこだわりも持っているのでしょうか?

P:花譜がデビュー前の頃、輝夜月さんのライブビューイングが映画館で非常に盛り上がっているのを目撃して、すごく驚いたんですね。画面に映っているのはバーチャル空間でのライブで、劇場の盛り上がりを見たときにカルチャーショックを覚えました。ただ、その頃からバーチャルアーティスト=VRライブみたいな流れが出来てきて、それ自体はすごく面白いとは思ったんですけど、僕らがやるなら全く違うことをしたかった。観客とアーティストの双方の熱量を感じられるリアルな現場を非常に求めていたんです。ペンライトを禁止にしているのも、ペンライトがベターになっているバーチャルアーティストとの差別化という意味もあります。カウンター精神ではないですが、当時の主流とは外れても、もっと美しくて、ミステリアスなものを作りたかった。単純にそういう方向性にペンライトがマッチしなかったという理由もありますが、当初の花譜のライブは少し排他的な表現だったのかなと。ただ、2020年はフィジカルライブが難しい状況下にあり、そこからバーチャルライブへと転換した中でいろいろな発見があって。今はもっと柔軟にというか、バーチャルやフィジカルに関係なく様々な形のライブを追求していきたいですし、より開けたものを作っていきたいです。

ーー“美しさ”や“ミステリアスさ”は、花譜さんを紐解く上でのキーワードになりそうです。

P:バーチャルシーンにあって、リアルにはないルールというものがあって。例えば、“歌ってみた”の文化はバーチャルでは当たり前のようにあるけど、リアルのアーティストはあまりやらないですよね。花譜もカバー曲は初めから行うようにしていたのですが、オリジナルの音楽的な部分に関しては、アーティストに振り切っているものを作りたいと考えていました。そもそもシーンの中でも、アイドル性の高いバーチャルアーティストはいても、花譜のような存在はデビュー当時はスタンダードではなかったんです。そのオリジナル曲も、花譜の人となりを反映した曲と、カンザキくんのプロデュース色の濃い曲、その2パターンに分かれているんです。その二つがコラージュされることを本人自身も楽しんでいますし、それが花譜というキャラクターの多面性にも繋がっている。そういうところもすべて「不可解」というワードに集約されていると思います。

ーーライブタイトルもそういう思想から来ているのですね。

P:ある意味、普通のライブ体験を作るという意味では、非効率的なことをやっている自覚はあります。継続性という意味では、もっと効率良くやらなければいけない。ただ、花譜の「不可解」という曲は、「大人にならなければいけない」「効率的に生きていかなければいけない」と言っているけど、「実際はそうではないよね?」という矛盾を孕んだ歌なんです。それは、まさしく<KAMITSUBAKI STUDIO>や花譜そのものなんですよ。部分的に見るとちゃんとビジネスもしているし、効率化も求めているんですけど、分岐点になるようなところではそれをぶっ壊している。すべてを合理的にやることは難しくて、どこかで辻褄をあわせるために合理性を求めるんですけど、最後は感情的な理由が原動力になる。結局、ここ何年かはそういうことを繰り返していて、運営サイドとしても本当に変なことをやっているなと思います(笑)。

ーー『Q2』は、YouTube Liveで全編無料にてライブ生中継しました。かなり大胆な施策だと思います。

P:『Q2』の生配信の反響はすごく良かったです。累計視聴者数で言うと46万人の方々に観ていただけました。中国でも無料配信していたので、花譜の存在を国内外の多くの方々に知っていただく機会になったので、大赤字でしたが本当にやれてよかったです。僕らの場合、制作費の関係上、どうしてもライブのチケットを低価格に設定できないんです。でも、やっぱり若い方々にとってはハードルが高い部分もあるので、なるべく無料にできることは無料にしたいというのが本音で。一方でしっかり作られているもの、感動できるものには「ちゃんと対価が必要なんだ」ということもひとつのメッセージとして伝えたい。

 <KAMITSUBAKI STUDIO>で作っているものは価格が高いとユーザーの方々からご指摘をいただくこともあるのですが、僕らとしてはそれくらいの価値のあるものを作っている自負もあります。ここは本当にアンビバレンツなんですけど、良いものはタダじゃないと伝えたいが、そういうものを度外視して時には無料で届けたいという気持ちもあって。ここも“不可解”というか悩みますね。

ーービジネスとして成立させなければ、そもそも継続することが難しいですから。

P:そこですよね。いち作り手としては本当はどうでもいいんですよね、原価の回収とか。でも続けるためには利益を取らなければいけないんですけどね。利益を求めるとどうしても広がらないし、大事なメッセージを届けるのであれば無料で出して、より多くの人に届けた方が勝算はあるんじゃないかとも正直思います。もし大きなスポンサーが付いたら、毎回無料というのもありかなとは思います。とはいえ僕らはその手の営業活動が苦手で、スポンサーを探すのも一苦労ではあります。

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