Tempalayは“ゴースト”を通して何を語りかけた? 最新ツアーファイナル公演に宿ったバンドの意思

 ほぼノーMCで通してきた綾斗もツアーファイナルとあって、ここまでたどり着いた感謝をスタッフやMargtに贈る。そして常に新しい曲が生まれるということは今回演奏した中で、もう二度と演奏しない曲もあるかもしれないと話す。「本日をもって(『ゴーストアルバム』は)成仏していただいて、皆さんに憑依するでしょう、ゴーストだけに」と、コロナ禍の中から必然的に生まれてきた作品を演奏することがまるで奉納のような発言。そしてたかが音楽ではあるけれど、それがあるところでまた会えればという旨の意思を告げた。

 小原綾斗という人は自分と自分以外の外側の境界線の曖昧さを自覚し、自然への憧憬にも自覚的だと思うのだが、「GHOST WORLD」の演出はエフェクトがかかった日本の自然の風景だった。ガラクタをひっくり返したようなアレンジも、琉球民謡的なものも都会的なメロウネスもつなぎ合わせたこの曲をライブでさらに自由に増幅させる4人は代替不可能だろう。

 そして『ゴーストアルバム』の一つの発端である「大東京万博」の二胡のサウンドに乗るサビの歌詞、〈あなたは面白く輝いていて〉がライブの流れの終盤にあることで、よりリアルに響いたのも確かだ。また『ゴーストアルバム』のツアーでありながら、「大東京万博」で締め括らなかったことも、Tempalayがずっと表現してきた彼らなりの愛の伝え方を明確にしていたように思う。

 この日の実質ラストは「そなちね」だったのだ。そのままステージから捌けず、アンコールとして新世代ジャズのビート感、ピアノフレーズとラップの三連フロウ、さらに転調を繰り返すサビでめくるめくタイムリープを擬似体験させる「Last Dance」を演奏。じわじわ容量を増していくアンサンブルの途中に一人、また一人とステージを去り、Natsuki渾身のロックドラムを披露。最後には立ち上がってシンバルを叩き、去って行った。

 映像演出やオーディエンスを感覚的に巻き込むライティングも相まって、“同じ宇宙船”に乗って旅をしたような約90分。生きているのか死んでいるのか判然としないコロナ禍の日常が写り込んだ『ゴーストアルバム』だが、その音楽が立ち上がるライブという場で呼び覚まされた新たな知覚、これはまごうことなき現実だ。エキスペリメンタルなライブの更新速度をまたも上げてきたTempalayは、いままさに怪物バンドの域にある。

■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。

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