「テレビが伝える音楽」第13回
NHK『SONGS』制作統括に聞く、リニューアル後も変わらない軸 番組における大泉洋の役割も
音楽の魅力を広く伝えるメディアとして、大きな機能を果たすテレビの音楽番組。CD全盛期に比べて番組数が減少する中、それぞれ趣向を凝らした番組づくりが行われている。そんななかでも、注目すべき番組に焦点をあてていく連載「テレビが伝える音楽」。第13回では、2021年4月からリニューアルした『SONGS』(NHK総合)制作統括・加藤英明氏にインタビューを行なった。『紅白歌合戦』チーフ・ディレクターも務めた加藤氏のキャリアや、『SONGS』における大泉洋の役割などをじっくりと語ってもらった。(編集部)
他の音楽番組とは明確に差別化しようという意識で誕生した
―― 加藤さんはもともと音楽番組を希望してNHKに入社されたのでしょうか?
加藤英明(以下、加藤): NHKにディレクターとして採用された時は漠然とドキュメンタリーを作ることになるんだと思っていました。そうしたら、いきなり芸能番組担当だと言われたので、当時はびっくりしました。僕は別にミュージシャンでもなければ楽器をやっていたわけでもないので、実はあまり音楽のことをやりたいという意識はなかったんです。でもNHKに入ってそういう仕事をやってみたらと言われて、まずはやってみようかな、と思って今に至る感じです。
―― では、ヘビーリスナーだった訳ではなかったんですね。
加藤:音楽は元々好きでリスナーとしてある程度は聴いていましたけど、自分がそれを演出したり、アーティストと直接向き合って番組を作るというのは、学生の頃は想像もしていなかったですね。入ってから、NHKにも色々な音楽番組があることを知り……『のど自慢』にいたこともあれば、『うたコン』にいたこともあれば、『鶴瓶の家族に乾杯』にいたこともありますし。エンターテインメント番組を渡り歩くなかで、結果的に僕は音楽の番組をやっていることが多いですね。
―― 過去には『ポップジャム』、最近では『紅白歌合戦』も担当していましたよね。
加藤:そうですね。『ポップジャム』は当時、爆笑問題さんが司会をされていて。僕は1年程担当して大阪へ異動したんですが、その翌年に大阪のNHKが新しくなってNHK大阪ホールができたんですよ。そこで番組もやるようになりました。2004年に大阪から東京に戻るんですが、そこから何年か経って、ほどなく『SONGS』が始まりました。『紅白』についていうと、ウチの部(NHK制作局第5制作ユニット)にいると、毎年何らかの形で『紅白』に関わるんです。僕は東日本大震災が起きた2011年と翌年の2012年に総合演出を、2018年~20年にはチーフ・プロデューサーを務めました。
――『SONGS』に関わるようになった経緯を聞かせてください。
加藤:『SONGS』ができる前に『夢・音楽館』『音楽・夢くらぶ』という、原型になるような、スタジオを使った音楽番組があったんです。そこを僕は経験して。僕がNHKに入った1997年は、CDが最も売れた年で、毎週のようにミリオンヒットが生まれるみたいな時期だったんですよ。いわば音楽業界全盛期です。そんな中で、民放の音楽番組は、日本テレビには『FAN』があり、TBSには『COUNT DOWN TV』や『うたばん』があり、フジテレビには『HEY!HEY!HEY!( MUSIC CHAMP)』があり、テレビ朝日には『Mステ(ミュージックステーション)』があり……。当時の僕らも何とかして『ポップジャム』を見てもらおうと必死でやっていましたけれど、多くの人に見られているという実感は無く。僕も自分でやっていて、周りの友人、若い世代に見てもらえないという感覚がありました。『紅白』も少しずつ視聴率が下がり始めていて、色んな意味で音楽番組が変わらなければいけなかった。そんなころに『SONGS』という番組が生まれました。
僕が携わるようになったのは『SONGS』が始まって1年たった2008年から。初期の『SONGS』は思い出の場所や母校そして故郷などでのドキュメントをベースに“アーティストの原点を探る音楽番組”でした。ナレーションもアーティスト本人にやってもらい、アーティスト本人のモノローグで綴るというスタイルは他になかったですし、30分でワンアーティストというのは、今から考えると贅沢というか。その頃の音楽番組は5分のJ-POPの楽曲だとしたら、それを2分半か3分のテレビサイズにして、どれだけテンポよくアーティストを次々に見せていって、間のトークを面白くするか、というバラエティ的な発想でずっとやってきていた。その中でいうと、『SONGS』は基本フルサイズでしたし、バラエティとは真逆のドキュメンタリーというアプローチで、他の音楽番組とは明確に差別化しようという意識で誕生しました。
――最近はベテランの方だけでなく若手アーティストも出演していますが、キャスティングの際に意識していることはありますか?
加藤:『SONGS』という番組が始まって10年以上が経ち、番組自体のイメージが出来上がった中で、“そのアーティストで『SONGS』を作れるか”ということはまず考えますね。30分、今は45分ですけど、ひと組のアーティストを深く掘り下げて、視聴者に見ごたえのあるものを作れるか。それにはキャリアだったり、人気もそうですよね。あとはアーティストにグッと迫った時に、こちらの期待に応えてもらえるだろうか、というのもあります。
――そういう点では、大泉洋さんが参加されたことで良い変化があったんじゃないでしょうか。
加藤:僕はちょうど大泉さんが番組の顔になった時には『SONGS』にいなくて。最初の頃、大泉さんは冒頭だけ出て、プレゼンター的な役割を果たしていました。でもせっかく大泉洋さんという稀代の人気者に何らかの役割を担ってもらうのだとしたら、もっと前面に出てもらった方が良いと思ったんですね。『紅白』でもそうでしたが、大泉さんはとにかくアーティストと絶妙な距離感で向き合う天才的な司会者だと僕は思ったので、4月からは大泉さんとアーティストの対談がベースにあり、そこに毎回登場するアーティストの今やヒストリーをVTRで紹介していくという演出にシフトしていきました。