藤井風の音楽がもたらした人々への“救い” 日本武道館ライブ、奇跡のようで必然の一夜

 藤井風が昨年10月に開催した武道館公演の模様と、開催までの数日間を追い掛けたドキュメント映像を収録した初の映像作品『Fujii Kaze "NAN-NAN SHOW 2020" HELP EVER HURT NEVER』を発売した。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から演出内容は約90分、公演の間には15分間の換気時間を設け、全スタッフ含め来場者全員がマスク着用、私語や歓声は厳禁、客席はソーシャルディスタンスを考慮して市松模様に配置、グッズの会場販売はしないなど、徹底した感染対策が行われたこの公演。そういう意味では、コロナ禍という特殊な状況における音楽イベントを記録した資料にもなっているだろう。

藤井風『Fujii Kaze "NAN-NAN SHOW 2020 " HELP EVER HURT NEVER』(Blu-Ray)

 そもそも、この公演の決定には驚かされたものだ。無観客ライブはある程度開催されていた時期ではあったが、有観客で、しかも武道館という場所でライブを行うことには、当時はかなり踏み切ったという印象を持った。開催を決めたのが7〜8月頃だという。一般的に武道館は1年以上前から事前に予約しないといけないが、東京五輪の延期によって武道館側のスケジュールが空いたため急遽決まったのだとか。それだけでもこの公演の開催自体が奇跡的で、当日までの期間がいかに怒涛であったかを物語っている。

 しかし筆者は、この公演の開催がどうしても偶然には思えなかった。開催されるべくして開催されたような気さえしているのだ。特典映像でマネージャーの河津知典氏が、開催するに至った経緯について以下のように話している。

「(武道館でのライブは)もともとはもうちょっと先にやりたいと思っていたんですけど、むしろ今やらなきゃいけないんじゃないかと思って」

「『HELP EVER HURT NEVER』(昨年5月発売)が世の中に出て、SNSやYouTubeの書き込みを見てみると“救われた”という声があまりにも多くて。ライブを見てもらったらもっと救えるのかなって」

 新種のウイルスによって世界が不安に包まれていたあの頃、世の中は物々しい雰囲気に包まれていた。不安は怒りに変わり、その怒りがまたさらなる怒りを生み、世界中が嵐のようにざわついていた2020年。そうした中でリリースされたこの『HELP EVER HURT NEVER』というアルバムは、人々の心を文字通り救ったのだと思う。この何かに突き動かされたようなマネージャーの言葉に象徴されるように、藤井風というアーティストは、時代に求められ、出るべくして出てきた存在のような気がしてならない。だからこの武道館公演も、奇跡のようで必然の一夜だったのだと思う。

Fujii Kaze "NAN-NAN SHOW 2020" HELP EVER HURT NEVER at NIPPON BUDOKAN live highlights

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