『MUSIC WARDROBE』インタビュー
FIVE NEW OLD、日常と音楽を繋ぐ創作の原点 「好きな音楽を選んで自分のスタイルに仕上げてほしい」
なんでも簡略化される時代だからこそ“もう一手間”が大事
ーー「Summertime」は90年代から00年代のパワーポップとかエモみたいな雰囲気があって、「原点回帰」というコメントもありましたけど、それもガレージで集まって音を鳴らす雰囲気から生まれたのかもしれないですね。
SHUN:「Summertime」のサビはHIROSHIくんが鼻歌で歌ってるのを聴いて、そこから広がったので、集まってたからこそ拾えたメロというか。HIROSHIくんは忘れっぽくて、「今どんなの歌ってました?」ってなることも多いんですけど(笑)。
HAYATO:実際SHUNくんがHIROSHIの歌を聴いて、「今のいいじゃん!」って言ったら、HIROSHIは最初「え? もうわかんない」ってなって。で、「誰か今の録ってない?」って聞いたら、SHUNくんが「録ってるよ」って、パッとiPhoneを出したんですよ。そのときは「さすがSHUNくん!」と思いました(笑)。
ーー早い段階でアルバムのテーマを決めて作っていったとのことでしたが、「MUSIC WARDROBE」というコンセプトが最初からあったのでしょうか?
SHUN:いや、最初にみんなで話し合ったのは、改めて自分たちがどんなバンドなのかを突き詰めて考えたときに、聴く人によってイメージが違うんじゃないかということで。実際時期によってもパンクロックだったり、ブラックミュージック寄りだったり、いろんな側面があるから、見る角度によって、いろんな風に見える。そういう意味で、まず「ホログラム」というワードが出たんです。だから、ジャケットにはその名残りがあるんですけど、そこから「ONE MORE DRIP」という自分たちのテーマも踏まえてもう一度考えたときに、聴いてくれる人が衣装棚から服を選ぶように、音楽を選んでほしいという意味で、『MUSIC WARDROBE』というタイトルになったんです。
HIROSHI:「ONE MORE DRIP=日常に彩りを」はFIVE NEW OLDにとって常に命題で、言葉で説明したら意味が伝わると思うんですけど、もっとパッと見てわかるようなワードで打ち出せないかと思ったときに、服も音楽も自分のライフスタイルを提示する表現方法だと思ったんですよね。僕たちは「日常に華を添える」とか「何気ない空間をドラマチックに変える」ということを常に考えていて、ティータイムにジャズを聴いたらオシャレな気分になるし、クラシックを聴いたら優雅な気分になったり、音楽にはそうやって空間を装飾する力があるじゃないですか。それと同じように、FIVE NEW OLDの音楽から好きなものを選んでもらって、自分のスタイルを仕上げてもらえたらなって。
ーー「ONE MORE DRIP」というコンセプトは、コロナ禍の中で日常を見つめ直した一年を経て、より深みを増したように思います。
HIROSHI:外に出る時間をなるべく減らすために、去年は普段やっていたことをいろいろ簡略化するようになりましたよね。食事をUber Eatsに運んでもらうのもそうだし、会議をリモートでやるのもそうだし。ただ、逆に普段蔑にしていたことに時間や手間をかけるようにもなったと思うんですよ。「ONE MORE DRIP」は直訳すると「もう一滴」ですけど、僕の中では「もうひと手間」という意味にも感じられるようになったんです。音楽にしても、ストリーミングですぐに聴ける手軽さもいいけど、レコードに針を落としたり、CDケースのラベルをはがしたり、ああいう行為の中に思い出が宿ると思うんですよね。いろんなものが簡略化されていくからこそ、ひと手間かけることも大事にしていかないとちょっと侘しいというか、極端に言えば、みんなひと手間をかけて、面倒くさいことを楽しむために生きてるんじゃないかと思ったんです。
ーーそれが、FIVE NEW OLDにとっては音楽だし。
HIROSHI:音楽だし、バンドですよね。バンドほど手間のかかる行為はないですから(笑)。ツアーだと毎回すごい量の機材を運んで、ワンマンならまだしも、対バンとかフェスだと30分のために何時間もかけて移動するわけで、面倒くさいことをやってるなと思うけど、でもやっぱりそこに思い出が宿るんですよね。
ーー「バンドの勢いがなくなった」みたいな話って、音楽性よりも経済効率の話だったりするわけですよね。でも去年一年は「非効率的なことの方がむしろ豊かなんじゃないか?」という気付きがあって、バンドの存在意義を考え直す一年にもなったなって。
HIROSHI:そうですね。海外だとマシン・ガン・ケリーがもう一回パンクサウンドに回帰してるのもそういうことなんじゃないかなって。最近は「風の時代」とかよく言いますけど、メイクマネーが全てだったヒップホップカルチャーから、仲間で集って、一緒に音を鳴らす喜びみたいなところに戻ってきてるのかなって気がしますね。
英語でも日本語でも楽しんでくれるリスナーを増やしたい
ーー具体的な曲について聞くと、まずは去年の7月に初の日本語詞曲である「Vent」が移籍第一弾としてリリースされました。なぜあの曲を最初に発表したのでしょうか?
HIROSHI:新しい環境に来て、新しいFIVE NEW OLDを見せたいと思ったときに、アジアツアーで英語詞の伝わりやすさを経験した一方で、日本語詞だけが持ってるユニークな響きをはもっと海外に持って行けるもので、それがFIVE NEW OLDが日本語をやる意味だと思ったんです。なので、それまで作り貯めていた中から曲を探して、「Vent」のメロディやコード感なら自分たちらしいスタイルで日本語をハメられると思ったんです。
ーー英語詞のバンドが日本語詞を取り入れるときは、日本のマーケットを意識してのトライが多いと思うんですけど、むしろ世界を意識した上でのトライだったんですね。
HIROSHI:そこは両方ですね。国内のマーケットは英語詞に対するハードルが高いので、だから日本語詞にトライした部分ももちろんあります。ただ、最終的な目標としては、英語でも日本語でもどっちも楽しんで聴いてもらえるリスナーを増やしたいんです。
ーー日本語詞の「Vent」を第一弾でリリースしたことで、アルバム全体でも日本語詞が増えるのかなとも思ったんですけど、割合としては依然として英語詞が多いですね。
SHUN:「この曲なら日本語が合うんじゃないか?」みたいな感じで、あくまで楽曲単位で考えたので、アルバムができあがってみて、意外と少なかった印象です。日本語メインで歌ってるのは、「Vent」と「Hallelujah」くらいですもんね。
ーーFIVE NEW OLDのような音楽性に日本語をハメることはそれだけ難しいということでもありますよね。「Vent」は前半は日本語、後半で英語になる対比も面白いですが、グルーヴという面ではやはり英語の方がマッチしているなと思うし。
HIROSHI:今の自分たちにとってはこれがベストな分量だと思うんですけど、今回作ったことで、次からはもっと英語と日本語を行き来できるようになっていくんじゃないかなって。僕たちはもともと洋楽に影響を受けてバンドをやっているので、自分たちを好きになってくれた人には、いろんな国の音楽を聴いてほしい。そういうきっかけになりたい気持ちもすごく強いです。
ーーその意味では、オマージュの手法はそのバンドを聴く直接的なきっかけになると思うんですけど、「Hallelujah」はThe Style Councilの「Shout to the Top」のオマージュになっていますよね。
HIROSHI:もともとはWATARUがストリングスの入ってないオケをくれて、僕は『マクロスF』の「星間飛行」みたいだと思ったんですよ。僕あの曲めちゃくちゃ好きで、「こいつ、ついに持ってきよった」と思って(笑)。なので、すぐにランカ・リーが歌うようなメロディが生まれたんですけど、でもビートからはスタカンのストリングスが連想できたので、オケに入れてみたんです。
ーー『MUSIC WARDROBE』というタイトルの作品にスタイル・カウンシル=スタイル評議会の楽曲に対するオマージュが入ってるのはぴったりですよね(笑)。
HIROSHI:フレンチポップをオマージュしたようなバージョンもあったんですけど、僕の中ではスタカンのイメージが強くなって、ギリギリで自分のに差し替えました(笑)。
ーー「Hallelujah」はヴァースの打ち込みのビートとコーラスの生ドラムの対比が印象的ですが、「Breathin’」のビートも非常に耳に残ります。
HIROSHI:「MINTIA」のタイアップのお話をいただいて、みんながマスクをしている中、呼吸のあり方をテーマにサビから作っていったんですけど、ブラックミュージックの大きなリズムをバンドでやってダイナミクスを出すタイプの楽曲の究極形を作りたいと思ったんです。ロックバンドのサウンドなんだけど、持ってるグルーヴは横ノリを目指して、All American Rejectsの「Gives You Hell」みたいな、「We Will Rock You」派生のリズムなんだけど、ギターのアプローチはもうちょっとフォーキーにしたり、あとはさっきも言ったマシン・ガン・ケリーみたいな、ヒップホップの人たちがパンクをリブートしてる感じを自分たちの中で混ぜて混ぜて混ぜて、この形になりました。
ーー混ぜて混ぜて混ぜて(笑)。
HIROSHI:だから、平歌はめちゃめちゃヒップホップっぽいのに、サビはジェス・グリンみたいな、ゴスペル感があって、その融合がバチッとできたなって。2010年に結成した頃のもともと持ってるパンクの血筋と、途中でバンドの代名詞になった「By Your Side」の持ってるグルーヴ感を、やっとひとつにできた感じがします。