崎山蒼志が鳴らす焦燥と躍動 ツアー最終公演で垣間見えた音楽家としての本性

 配信を見ている人への挨拶では、10代らしいあどけない姿を見せる。無心で歌うような演奏中の表情とは打って変わり、素の表情は柔らかい。同じくバンド編成のまま、次は疾走感のあるオルタナティブロック「逆行」へ。Amazon Prime Videoドラマ『賭ケグルイ双(ツイン)』の主題歌としてリリースされることが発表された新曲である。そして、スリリングなアンサンブルで魅了した「Samidare」が、この日のハイライトだろう。楽曲の緩急を手繰りながら、爆発的なドラムを聴かせる守真人と、間奏で素晴らしいベースプレイを聴かせたマーティ・ホロベックのプレイは一際ヤバかった。

 僅か6曲であったが、とんでもないものを見た気分にさせられる。ドラムとベースがステージを後にすると、余韻に浸かる間もなくキーボードのふたり編成で「そのままどこか」を披露。恐らく、この日一番優しいメロディの曲と言えるだろう。内省的な歌と夢の中にいるようなファルセット。〈音楽よりも速く〉という言葉が静かに会場を満たしていく。夜の空気にそっと溶け込むような抒情的な1曲である。崎山蒼志が元来持っている雰囲気だろうか。エレキギターの弾き語りで歌われた「ブラックリバーブ」とあわせて、どこか無常を感じさせる楽曲である。

 最後は再び同期させた音と共に、諭吉佳作/menと共作した「むげん・」、現実と幻想を行き来するような浮遊感のあるトラック「Repeat」を披露し、ライブは終演。アンコールでは反骨精神をテーマに書いたという「回転」が披露された。飢餓感が音に代わったようなノイジーなロックナンバーで、無心でギターを掻き鳴らすアウトロに、崎山蒼志という音楽家の本性を見た気がした。

 フレーズのボキャブラリーが多く、次の展開が読めない。楽曲は多彩で、素晴らしいバンドメンバーと共に1曲1曲無軌道に変化していくようなライブであった。そうした流動的なステージは、これから先どこにでも行けるだろう彼の未来を示唆するようでもある。派手な演出はなく、MCもほとんど挨拶のみ。彼の音楽を、ただただ彼の音楽だけを堪能する、そんな素晴らしい時間だった。

■黒田隆太朗
編集/ライター。1989年千葉県生まれ。MUSICA勤務を経てフリーランスに転身。
Twitter(@KURODARyutaro)

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