ARIANNEによる『エヴァンゲリオン』劇中挿入歌がバイラル首位 シリーズが描いてきたテーマと直結する1曲
タイトルはドイツ語、歌詞は日本語の原詞をわざわざ英訳した上に、肝となるクワイアのアプローチを大胆にカットする。これは庵野氏が、映像と音楽の親和性をどれだけ大切にしているかがわかるエピソードではなかろうか。庵野氏はおそらく、音楽を映像を彩るファクターではなく、自己表現のひとつとみなしていたのだと思う。そして「KOMM, SUSSER TOD (M-10 Director's Edit.Version)」は、『エヴァンゲリオン』シリーズのすべてを通して庵野氏が描きたかったテーマに直結した1曲だったのはなかろうか。この曲でリフレインされる〈It all returns to nothing(すべて無に還る)〉というワンフレーズこそ、そのテーマだ。『エヴァンゲリオン』シリーズが初めて世の中に出てから25年。思えば、最初から提示されていたテーマであったが、それを多角的に25年かけて、毎回斬新な手法を取り入れながら描き続けたのが、庵野氏のすごいところである。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』は、3月8日午前7時の初回上映を皮切りに、全国466館(IMAX38館、4D版82館含む)の劇場で公開された。公開初日に興行収入8億277万4200円、観客動員数53万9623人を記録し、初週の動員数・興行収入でも1位を獲得している。
終焉を迎えた庵野氏の美術品『エヴァンゲリオン』シリーズ。有終の美を飾るに相応しいスケールあるミディアムバラード「KOMM, SUSSER TOD (M-10 Director's Edit.Version)」が、バイラルチャートの1位を飾ったのは、その曲調や歌詞だけでなく、大衆が庵野氏の美術品から、表現者の気持ちを読みとった結果と言えるのではなかろうか。無に還るとは何なのか。ただ消えることでもない、ただリセットすることでもないのかもしれない。もはやテーマは人生訓レベルだ。その答えは個々の中にあるが、それを考えるきっかけが今回のように日本が世界に誇るエンターテインメントなら、こんなに素晴らしく、誇らしいことはない。
バイラルチャートって掘れば掘るほど、過去や未来、今の文化や文明と関わっているのがわかって、本当に面白いなと思った今週の分析でした。
■伊藤亜希
ライター。編集。アーティストサイトの企画・制作。喜んだり、落ち込んだり、切なくなったり、お酒を飲んだりしてると、勝手に脳内BGMが流れ出す幸せな日々。旦那と小さなイタリアンバル(新中野駅から徒歩2分)始めました。
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