『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』クロスレビューVol.3:鹿野淳「ロックという概念の“原点”が綴られている」
冒頭からこの国のロックシーン最重要期のドキュメンタリーを綴ったり、要所要所で出てくる邦楽ロックの脈略や転換期の話などからもわかる通り、この本は単なるバンドストーリーだけではない、ロックバンドの概念や、点と点を線にして束ねたものだ。LOSTAGEを好きな方々はもちろんだが、むしろ彼らを知らない、聴いたことがないロックファンやバンドマニアこそが読むと「自分もいっちょ何かやったるか!」というテンションになり、結果的にLOSTAGEを聴きたくなったりライブに向かいたくなるような、音楽にとって理想的な一冊である。
著者である石井さんと自分はほぼ同業者なので、その目線で読んでしまうが、キャリアが僕の方が7、8年ほど古いので、90年代以降のシーンへ向ける視線がかなり違うーー要はその視線がロマンティックだったりポジティブなのが個人的にとても面白かった。LOSTAGEや石井さんが描いた2000年前後へのロマンを、今のキッズたちが今のシーンに対して持っているのかは甚だ懐疑的だが、コロナで荒地になりかけているライブハウスや途方にくれているかもしれないバンドマンにとって、この本の中にあるロマンや愚直さをシーン全体が取り戻すことはとても重要なことだろう。そういう意味で、様々なロックという概念の2000年代の大切な「原点」が、ここには綴られている。
長く活動することができるバンドやソングライターは、必ず確かな理由を持っていて、その理由はとてもリアルなものなのだが、リアルなものをリアルなままにしといても伝わらない。そのリアルをストーリー化することが重要で、そのストーリーテラーがLOSTAGEにとっては石井さんであり、この一冊だということが、ところどころから滲み出ている。
身ぐるみ剥がされた、いや、「自ら剥がした」か。そんなロックバンドがこれからも曲りくねった道をまっすぐ進むことができますように。そんな願いが字間、行間から溢れ落ちている。
■鹿野 淳
89年扶桑社入社、翌90年(株)ロッキング・オン入社。98年より音楽専門誌『BUZZ』、邦楽月刊誌『ROCKIN’ON JAPAN』の編集長を歴任。04年ロッキング・オン退社後、(株)FACT設立。06年にサッカー雑誌『STARsoccer』を創刊し、07年に月刊音楽専門誌『MUSICA』を創刊させる。フェスは「ROCK IN JAPAN FES.」に立ち上げメンバーとして関わり、03年には「COUNTDOWN JAPAN 03/04」、10年からは東京初の総合フェス「ROCKS TOKYO」をオーガナイズ。14年からは埼玉県初のメガフェス「VIVA LA ROCK」をプロデュースしている。Twitter:@sikappe
■書籍情報
タイトル:『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』
著者:石井恵梨子
ISBN:978-4-909852-15-1
発売日:2021年2月25日(木)
価格:2,500円(税抜)
発売元:株式会社blueprint
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VIVA LA ROCK 公式サイト:https://vivalarock.jp/2021/