声優 櫻井孝宏、アニメ『岸辺露伴は動かない』での壮絶なる演技 2つのエピソードから考察
『岸辺露伴は動かない』ーーまずもってこのタイトルが意味深だ。作品自体を知らない人が目にしたら、“岸辺露伴とは何なのか?”、“岸辺露伴が動かないから何だっていうんだ”と考えるのではないか? 答え合わせをするなら、“岸辺露伴”は作品内における主要キャラクターのこと、“動かない”は言葉そのまま、作中では基本“岸辺露伴は動かない”のである。
Netflixにて全世界独占配信中のアニメ『岸辺露伴は動かない』は、荒木飛呂彦による『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの第4部『ダイヤモンドは砕けない』に登場する漫画家、岸辺露伴を中心に据えたスピンオフ作品だ。露伴の声は、2016年に第4部がアニメ化された際にも同役を演じた櫻井孝宏が担当。本稿では、『岸辺露伴は動かない』での櫻井の演技を中心に、作品自体の特殊な構造にも言及していく。
櫻井孝宏自身における直近での代表作といえば、やはり『鬼滅の刃』(TOYKO MXほか)での冨岡義勇役が挙げられる。そのほかにも『おそ松さん』(テレビ東京ほか)のおそ松役など、ほぼ毎年ムーブメントを巻き起こすアニメーション作品に参加している事実を記せば、彼が人気声優か否かを説明する必要もないだろう。そんな櫻井が演じる岸辺露伴は、常に冷静沈着だがわがままで自己中心的、自分に対して絶対的な自信を持つ、かなり特徴のあるキャラクターだ。『岸辺露伴は動かない』で露伴は主人公でありながら、全ては自身が経験・体験したことを話すナビゲーター的な役割も担っている。“動かない”のも、作品内で露伴はこちら側や別キャラクターに過去のエピソードを話している、という状況を言い表しての表現なのだ。
“動かない”露伴でありながら、語り出したエピソードの中では実際に動き回る露伴を演じる場合もある櫻井。何気なく映像を観て楽しむ上では自然なものとして聞こえるが、演じる側の視点で見た際、この二重構造は相当な表現テクニックを要するものではないのかと推測する。インタビューで第4部のアニメ本編と本作との違いを聞かれた櫻井は、「露伴の切り取り方が『ジョジョ』本編とは少し違うかもしれませんが、それは原作・シナリオの段階で既に味付けされている部分なので、こちらから演技を変える必要はありません」(※1)と答える。この発言からわかることは、すでに活躍すべきポジションが与えられている以上、声優として自分がなすべきは“岸辺露伴”に徹するということ。それ以上もそれ以下もない、という心情だろうか。そこには、どこか役である露伴にも繋がる圧倒的な自信と責任を感じることができる。
(※1)http://jojo-animation.com/ova/rohan/