INORANが考える、流れに身を委ねることの大切さ 「気持ちに余裕を持っていないと乗り越えていけない」

INORAN、流れに身を委ねることの大切さ

 INORANが、2月17日にニューアルバム『Between The World And Me』をリリースした。今作は昨年9月にリリースしたアルバム『Libertine Dreams』同様、2020年のステイホーム期間に作られた楽曲で構成。ほぼ制作した時系列に沿って収録されており、自然の流れのまま自身の表現を詰め込んだ作品が完成した。

 今回のインタビューでは、今作と前作の制作過程を軸に、ミュージシャンとして新しいものを生み出すモチベーションの源泉についても話を聞いた。(編集部)

この2枚を作った時期というのは確実に一生忘れられない

ーーINORANさんに前回お話を聞いたのが一昨年の夏、ちょうど『2019』という象徴的なタイトルのアルバムを完成させた直後でした(INORANが語る、“まだ見ていないもの”に向かう姿勢「音楽の力の信じて生き勝る」)。あのときは世の中的に大きな転換期を迎えるタイミングというようなお話をしましたが、まさかその後こういう形で世界が変わってしまうとは予想だにしなかったですよね。

INORAN:そうですよね。こればかりは誰も予測はできなかったと思います。

ーーその変化を迎えたあとに制作された2枚、前作の『Libertine Dreams』と今作『Between The World And Me』は、INORANさんにとって転機の作品になったんじゃないかという印象を受けました。

INORAN:転機と言えば毎回転機なんですけど、特にこの2枚に関しては新型コロナウイルスの影響で世界中が揺れて、日本でも2020年春に緊急事態宣言が出て、ステイホーム期間に入ったときから曲作りを始めたもので。時系列でいうと、『Libertine Dreams』がステイホーム期間の前半に作った曲で、今回の『Between The World And Me』は後半に作った曲。曲順もほぼ制作した時系列に沿ったものなんです。

ーーでは、『Libertine Dreams』の制作を始めた時点で、次のアルバムの構想もあったと?

INORAN:3カ月あまりに30曲ぐらいできたので、最初は2枚組にしようかなぐらいの感覚だったんですけど、やっぱりアルバム単体でまず10曲プラス1、2曲で詰めていく作業が、集中力的にも最適なのかなと。なので、前半に作った曲を『Libertine Dreams』というタイトルのアルバムで発表することを決めたんです。でも、その時点では『Between The World And Me』はまだ別の仮タイトルでしたけど、この2枚に収録されている曲のデモはみんな聴いているんですよ。

ーーそこで曲を絞って1枚にまとめるという形ではなく、あえて2枚作ろうとしたわけですね。

INORAN:時期が時期だっただけに、そこを精査する気分になれなかったというか。むしろ、そうしないほうがリアルだなと思ったし、自然の流れのまま、こういうふうに残しておきたかったんです。

ーー曲を作った順に並べることで、その期間の感情の揺れ動きもアルバムからも読み取ることができるでしょうし。それもあってか、『Libertine Dreams』のラストナンバー「Dirty World」から今作のオープニングナンバー「Hard Right」へのつながりも、非常にナチュラルに感じられました。

INORAN:ラフに言っちゃうと昨日があるから今日がある、今日があるから明日があるみたいな流れの中で曲が落ちてきたという感じですね。僕も昨日、自分の感情を深掘りするためにアルバムを聴いたんですけど、そういうときは必ず2枚連続で聴くんですよ。どちらかが欠けても違うし、2枚通して聴くことでちゃんと前後があるものなんだなってより実感します。

ーーそういう意味では、これまでのキャリアの中でも珍しい2作品になりましたね。

INORAN:でも、そういうことってあとになってから、いろんなものに紐付けされていくんじゃないかな。物事ってたぶんそうだと思うんです。それでも、この2枚を作った時期というのは確実に一生忘れられないし、それは聴いてくれる皆さんにとってもそうだろうし、(コロナの)犠牲になった方やその家族の方にはもっとそうだろうし。今回は僕のフィルターを通してですけど、こういう形で記録しておくことができたことで、もらった時間を有効に使えたのかなと思います。

限りなく感じた時間を有効に使えるようにとシフト

ーーこの2枚ではアレンジや演奏もINORANさんおひとりで手がけています。それ以前の作品のようにバンド形態で組み上げていく形と比べて、また異なる手応えもあったのでしょうか?

INORAN:そこは一概には比較できないかな。バンドで録音する前のデモも、このくらいのクオリティのものを僕ひとりで作っていますし、その時点でドラムのフィルや音色まで決めているので。もちろん、バンドのレコーディングでそのとおりにやってくれとは言わないですよ。そこから先は、自分と自分以外の人と作り上げていく楽しみがありますしね。特に今回はそれがないから良いとかダメとかではなくて、そうせざるを得ない、あるものでやるしかないという状況だったし、その気持ちに動かされて作ったものなので、どちらも(以前の作品より)劣らないものだと思っています。

ーーひとりで作る良さ、人と一緒に作る良さ、それぞれ魅力がありますものね。

INORAN:そうですね。でも、やっぱり人と一緒に作り上げるほうが楽しいですよ。例えば、ひとりでごはんを食べるよりも、友達と会話をしながら食事したりお酒を飲んだほうが楽しいですし。バンドのレコーディングで音を作り上げていくのも会話とコミュニケーションを楽しむこと込みですから、それによって込められた温度も変わってきますしね。

ーーとなると、今回はより自分との対話が求められる作業だったのかなという気がしますが。

INORAN:やっぱりこの時期は、ミュージシャンとして新しいものを産み出すべきだという強い使命感や責任に動かされていた部分もあったんですが、途中から細かいことはどうでもよくなって。むしろ楽しみながら、ワクワクしながら、限りなく感じた時間を有効に使えるようにと、シフトしていきました。

ーーこういう制作方法になったからこその結果論だと思うんですけど、音の質感やアレンジの方向性からは昨今の海外のメインストリームにある音楽との共通点もたくさん見つけられるものでした。そのあたりは意識的でしたか?

INORAN:普段からそういう音楽を聴いていますしね。だからといって決して狙っていたわけではなく、単純に好きな音が投影されただけで。ただ、今主流のロー感をあとから付け足したりすると、結果として嘘っぽくなるんですよ。特に今回は、いつも叩いてもらっているドラムの方が怪我をして、半年ぐらい戦線離脱するというのもあったので、ほかの人を探すのではなくて打ち込みにしようかなと考えていたら、世の中がこういう状況になってしまったので。そこで「打ち込みだったら、やっぱりスーパーローだよね」と、バンドでは出せない音を今回は突き詰めていこうかなと考えたんです。で、作業をしていくと、今まで気分を上げるときやライブ前に聴いていた音楽が「ああ、こういうふうにできているんだな」と気づくわけです。そういう点では、以前とはまた違う感覚でトライできたと思いますね。

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