アイドルと恋愛、長きにわたって続く議論 誰もが幸せになれるラインはあるのか
小田さくら「家でだらだらしていることも改めないと…」
一方、筆者個人は基本的に「肯定派」だ。アイドルの恋愛が受け入れられるようになっても良いのではないかと考えている。
全国各地にこれだけアイドルの数が増え、さらにモーニング娘。、でんぱ組.inc、ももいろクローバーZ、そして全員結婚を発表したNegiccoなど活動歴の長いグループも多くなってきた。いろんな考えが生まれ、何かに縛られることもなくなってきたなかで、恋愛をきっかけにアイドルの道が断たれることは「いまどき、どうなのかな」と感じてしまう。アイドルも職業である。女性が結婚、出産をしても仕事が続けられる環境づくりが社会全体としてすすめられるなか、そういった世の中の動きは無視できないのではないか。
あと、テレビやYouTubeでいまだに、元アイドルたちが出演して「アイドル時代の恋愛事情」を打ち明ける番組を見かける。恋愛話自体は良いとは思う。しかし、アイドルの恋愛が暴露話的な形で打ち出され、スキャンダラスなイメージで扱われる限り、タブーの域から抜け出すことはできないだろう。そういう企画構成をおもしろがる番組制作者は数多くいる。そういった人たちの、アイドルに対する見方の変化も必要である。
モーニング娘。’21の小田さくらは「私が思うこと。小田さくら」と題した2月17日のブログ内で、このように気持ちを記している。
「音楽を武器にしようとしているハロー!プロジェクトが私は大好きです。なので、高木さんのように歌声という最大の武器を持ち合わせていた人ですら、戦えない事があるという現実に音楽が1番大事ではなかったんだと感じた事がすごく悲しかったです。じゃあ私達がアイドルとして努力してきた歌やダンス、ダイエットなどは無駄なのでしょうか?「アイドル」は音楽という娯楽の中にちゃんと属せているのでしょうか? 私が思う事は1つで、アイドルが個性や音楽で評価される世の中になったら良いなぁと思います」
アイドルを推す理由として、先述したように「好意が揺さぶられる」というものがある。でも、それだけではない。圧倒的な歌唱力、目を奪われるほどのダンスなど、パフォーマンスの素晴らしさから「この人を推そう」となる場合も多々ある。現に筆者は、小田さくらのステージングが大好きだ。モー娘。のライブを見るとき、彼女を中心に追っている。恋愛的な感情とはまったく違う部分で魅力を感じている。
さらに小田は以下のように続ける。
「私がプロとして皆さんから頂いているものは歌、ダンス、笑顔、キラキラなどあくまでステージ上のものに対して頂いていると思っていましたが その中にプライベートの事までもが含まれていたのならば 家でだらだらしている事なども改めないといけないなぁと思います。(中略)私は、「アイドル」という肩書をお仕事以外のために使っている方はあまり好意的には思わないです」
本稿前半では、「アイドルの恋愛」に対するファンや運営の心理を書いた。一方でアイドルたちは、小田のこの意見に共感できる部分が強いのではないか。
アイドルの恋愛、全員が納得できるラインとは?
書籍『地下アイドルの法律相談』は、アイドルの恋愛の可否について法律的な目線で語られていて、とても分かりやすい。事務所との契約において恋愛禁止を設定されることは、「公序良俗違反」にあたると記述。恋愛をする自由は人間が幸福に生きるうえで重要な行為であるため、契約などで恋愛禁止を定めるのは人権問題だという。恋愛禁止の契約を破ったとして損害賠償請求の裁判も過去にあったが、判決内容はさまざま。ひとつ訴えたいのは、恋愛禁止の約束を破って事務所を退所させたとしても、芸能界から締め出して表現者としての芽を摘むようなことはないようにしてほしい。
アイドルの恋愛――。アイドル、ファン、運営のすべてにとって幸せになれるラインは現状、結局「バレないこと」になるだろうか。ファンとしては「恋愛などプライベートは何をしていても良いけど、アイドルとしてそこは隠し通してほしい」がせめてもの願いなはず(ただJuice=Juice・高木の場合はマスコミに探り当てられてしまった。そうなると難しい……)。そのためにはアイドル本人だけではなく、交際相手の理解も必要になってくる。
あと筆者は「肯定派」と書いたが、それは私が、好意的な目で特定の誰かを本気で推しているわけではないからだろう(もちろん「良いな」というアイドル、興味深いアイドルはたくさんいる)。だからアイドルの恋愛もこうやって受容できる。もし、感情面で本気で惚れ込むアイドルがいたなら正気でいられないかもしれない。
こうやって恋愛を含めて現在のアイドルのあり方について意見が交わされることはとても大切だ。今後、恋愛をオープンにするアイドルも出てくる可能性はある。実際、バラエティ番組の企画とは言え『今日、好きになりました。』(AbemaTV)内で、PARADISESのナルハワールド(山田なる)が男性と恋愛を実らせた。推すか推さないかはファンの判断に委ねられるが、かつてほど「アイドルの恋愛禁止」がまかり通る時代ではないことだけは、心の準備をしておいた方が良いだろう。
■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter