『アイドル楽曲大賞2020』(インディーズ編)

ukka、クマリデパート、リルネードら楽曲が高順位 論客4名が語り合う、苦境にあるインディーズアイドルの現状と活路

どれだけのグループが2021年下半期まで持ち堪えられるのか

ーーアルバム部門も見ていくと、1位が私立恵比寿中学の『playlist』、2位がRYUTistの『ファルセット』、3位がsora tob sakanaの『deep blue』です。

ガリバー:2020年でいうとエビ中のこの1枚には叶わないなと。アルバムとしての強度がずば抜けていた印象です。でも、RYUTistの方がストーリー性、全体の構成としては完成度が高い。エビ中は粒が大きいのが象徴的で。

ピロスエ:『playlist』というタイトルがいいですよね。独立したお気に入りの強めの1曲1曲が集結したというイメージで、まさにそういう内容なわけですから。

岡島:このベスト3は納得できますよね。4位以下はフレッシュなグループが頭角を現して来ているのが良い傾向だなと思います。RAYの『Pink』が4位、サンダルテレフォンの『Step by Step』が5位、9位にもNELNの『Predawn』がきてる。グループの解散など多い年でしたが、インディーズ勢は面白いグループが育ってきてるんだなって感じはしますよね。

ピロスエ:6位にMIGMA SHELTERの『ALICE』が入ってるけど、どうなんですか?

宗像:がっつりとした強固なストーリーのコンセプトアルバムを作ったんですね。かつMIGMA SHELTERってトランステクノのグループなんだけど、いろんな音楽の幅に挑戦していて、1曲の中でも変化が激しい。そもそもトランステクノをやっているアイドルグループがいないし、アルバムの完成度が高いのは、満を持してここまで上がってきた理由だと思いますね。

岡島:しっかり音楽を作ってる感じがしますよね。

宗像:8位に『ひなたざか』が入っている日向坂46やディアステージ、WACKと言ったいわゆるメジャーレーベルと関わっているところは、ライブがなかなか出来なくなっている状況の中で、東京のインディーズって緊急事態宣言が明けて、即ライブだってノリになってきて。それは賛否分かれると思うんですね。僕の中で象徴的なのは、10位に『にゅーかおすっ!!!!』が入ったアンスリュームが緊急事態明けでライブをやるようになって上がってきたのはその辺だろうなと。2020年は勢いが衰えるアイドルは目に見えて衰えていったんですよ。身動きが取れないから。ライブアイドルって結局、ライブをやらないとだめなんだというのがはっきり出てしまった。アンスリュームは曲自体もいいです。プロデューサーがSOLと同じせいじさんで、楽曲派のSOLよりもアンスリュームが上がってくるのはライブの勢いがあるんですよね。

岡島:とにかくライブ中に騒げて盛り上がれる、というタイプのアイドルは、コロナ禍では大きな苦戦を強いられたと思いますね。

宗像:僕の知ってるところはソーシャルディスタンスを厳密にやってるんですけど、コール入っちゃったなんて事件も聞きます。ライブハウスによって判断が分かれるし、その辺の混乱はずっとあります。メジャー部門の17位に真っ白なキャンバスの「桜色カメラロール」が入っているけど、白キャンですらライブは聴かせる曲。“東京3大ミックス現場”と言われた白キャンも、聴かせる曲中心なんですよ。ライブが変わりだしてますね。

ピロスエ:ハロプロも『Hello! Project 2020 ~The Ballad~』というライブタイトルで、J-POPバラード曲のカバーをソロで歌うという内容でした。最近のライブではオリジナルのアッパー曲もやるようにはなってきているんですが、観客は完全着席・声出し禁止なので、コールを手拍子で表現したりするような流れになってますね。

岡島:すでに世間的にも売れてファン数を多く獲得できていたところは長く延命できるけど、これからスタートするグループはライブでファン層を拡大する、という戦略もなかなか通じなくなっているので、展開が難しい。企業としっかり契約してやっているところであればあるほど、コンプライアンス的にライブができなかったり、オンラインライブ主体にせざるを得ないと考えるところも少なくない。一方、インディーズは独自の判断で動けたりするので、日本ライブハウス協会などが提唱しているガイドラインを守った上でなら、ライブを続けることができる。今年は解散や脱退も多かったですが、一体どれだけのグループが2021年の下半期まで持ち堪えられるのか、心配ですね。我慢の期間が続きます。こうした状況が、楽曲大賞のランキングにも如実に影響したんだなという印象がありますね。

宗像:ライブをやるところが強くなってしまうという問題がありますね。

岡島:自分たちの判断で感染対策をして、前述のガイドラインをしっかり守った上でライブを続けたところの順位が上がってきたという側面はあるかもしれないですね。

宗像:MIGMA SHELTERの所属するAqbiRecも対バンとか慎重だったので。

ガリバー:RAYは大阪でもしっかり感染対策をした上でワンマンをやってくれたので、ちゃんとワンマンを観れたグループの一つです。こういう状況でも大阪まで来てくれるのはありがたいですし、安心して観れましたね。

ーーメジャー部門に続き、インディーズ部門でも2021年に期待することを聞かせてください。

宗像:インディーズ部門は、社会的混乱がそのまま投影されるんですよ。メジャーよりも如実に。どうなっていくかは、分からない。22位にRingwanderungの「ハローハロー」がいるけど、曲がいいところはちゃんと上がってくるんだなとも思うし。

ガリバー:ライブフロアの熱気だったり、密度を求める欲求ってなくならないと思うんですよ。そんな簡単にしょうがないよねってならないじゃないですか。

宗像:ならない。ならない。

ガリバー:そのもどかしい気持ちのやり場をどこに向けるかって、誰も正解を見出せていない気がしていて。そこのアイデアが出て来ればブレイクスルーになるんじゃないかと。

宗像:これはアンビバレントな発言なんですけど、楽曲派の総数が減ってるような気がするんですよ。楽曲派に向けたマーケットを運営のみなさんが狙うのはやめた方がいいのかなとは思っていて、パイをどうやって広げていくかに注力した方がいいんだろうと思いますね。例えば、女の子をYouTuber事務所から引っ張ってくるとか。クロスカルチャーが大事なんですよね。

岡島:結局経営的に体力があるところはある程度は大丈夫だし、それ以外は一層厳しくなっていく、という結論になるんだと思いますけどね。

ガリバー:tipToe.とかukkaがそうですけど、コロナ禍になってからオンラインファンクラブ的なものを始めてるんですよ。持続性って意味では重要な着眼点で、今いるファンの人たちを大事にしている。新たな体制を取っているtipToe.でもそういうことをやっていたりするので、一つの方法だったりするんじゃないかなと思いますね。

岡島:ある程度ファンがいるグループはやった方がいいですよね。

宗像:オンラインファンクラブにしても、顧客満足度を維持していかないといけない。その満足度に楽曲が含まれるっていう概念でいいと思います。これはメジャー的な話でもあって、男性だから特にノミネートされていないし、K-POPなんだけど、みんなBTSの「Dynamite」がビルボード1位というのは認識してると思うんですよ。BTSは何がすごいって韓国からほぼ出国していないと。全てがオンラインで、データのやり取りだけで行われている。あの規模は難しいと思うけど、ちょっと前は日本のメディアに出ていた子たちなので、何かしらの希望はあるはずです。NiziUもそうだし、使える回路はあるはずなので。「Dynamite」の歌詞には、〈Shining through the city with a little funk and soul(ファンクとソウルでこの街を照らす)〉っていう歌詞が出てくるんですね。要は典型的な70'sディスコ、つまりアメリカビルボード全体がアイドル楽曲大賞に追いついてきたんですよ。やっとアメリカが俺たちに追いついてきた。まだまだ俺たちの戦いは始まったばかりだと。

ピロスエ:アイドル楽曲は最先端ですからね!

宗像:僕らはBTSにフリーライドしていくと。コロナの状況で、アメリカ人が聴いていたのが明るいディスコソングだっていうのは需要なので。しんどいと明るい曲を聴きたいっていうね。来年は『アイドル楽曲大賞 in USA』をやるんで。俺たちもアメリカ進出だ!

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