神谷浩史、井上和彦、堀江一眞……『夏目友人帳』の世界に命を吹き込み続ける声優たち

「小さい頃から時々変なものを見た。他の人には見えないらしい、それはおそらく妖怪と呼ばれるものの類」

 これは、アニメ『夏目友人帳』(テレビ東京系)の主人公・夏目貴志が同作品の冒頭に口にする言葉だ。緑川ゆき原作の漫画は2007年から現在に至るまで『LaLa』にて連載が続いており、アニメも第1期(2008年)から第6期(2017年)まで、間隔を空けて長期にわたり放送されている。

 そんな『夏目友人帳』シリーズの最新作として、現在『夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者』(以下『石起こしと怪しき来訪者』)が公開中だ。本稿では、 10年以上変わらずに同シリーズの空気感を生み出し続けている、3名の声優に注目していきたい。

「夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者」本予告トレーラー

 まずは主人公・夏目貴志を演じるは、今や説明不要の人気声優、神谷浩史だ。声優はもちろん、ナレーター、アーティストとしても活動しており、3月24日にはニューシングル『BRAND NEW WAY』のリリースも控えている。

 『夏目友人帳』において神谷が表現する夏目の声は、その複雑な生い立ち、妖が見えることに対する葛藤、仲間たちと送る平凡な高校生の日常など、一つのセリフに込められる要素が実に多彩で、かつ繊細だ。『進撃の巨人』シリーズで演じるリヴァイ、『ONE PIECE』(フジテレビ系)でのトラファルガー・ローなど、そのキャリアにおいて長く務めているキャラクターと比較しても、神谷にとって夏目は特異な役と言えるだろう。夏目においては感情を表に出さない場面が多いが、表に出さずとも人を想い、妖に対して様々な感情を抱いていることをその声でも伝えなければならない。セリフとセリフの間にある余白、アニメーションで言えばそれは神谷が声を当てていないシーンとなるわけだが、そこにも確実に夏目の存在を感じることができる。神谷の声は、シリーズを通して常に変わることなく、そこに生きる夏目を私たちに感じさせることに徹しているように感じる。

 今回の『石起こしと怪しき来訪者』は2つの短編で構成されており、それぞれで夏目の立ち振る舞いが異なる。『石起こし』では迷える妖に振り回されながら、徐々に妖同士の時を超えた繋がりを夏目も共有していく。そして友人である田沼要を中心とした『怪しき来訪者』では、かけがえのない友への想いと、これまでの人間関係によって抱えた心のトラウマと向き合う場面などが描かれる。神谷は変わらずに夏目であり続けているが、前者と後者で表現される絶妙な心情の揺らぎにも注目だ。

「夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者」キャストコメント

 同シリーズで夏目の用心棒として登場するニャンコ先生/斑を演じるは、1970年代から現在まで第一線で活躍し続ける、井上和彦。斑の姿では、その深みのあるバリトンボイスを効かせ、片やニャンコ先生ではチャーミングでありながらどこか退くたらしい一面も見せるなど、作品内で最も振り幅の激しいキャラクターと言えるだろう。

 神谷と違い妖を演じる井上は、夏目とは違う、妖の時間軸を感じさせるような空気感を醸し出す。それは人間と妖では寿命が大きく異なるからで、些細な瞬間に成長を見せる夏目と、そんな人間の寿命を刹那だと捉えているニャンコ先生の間に生じる温度差は、この作品における儚さを表現している。いつか別れがくることを絶対条件に、ある契約で結びついている夏目とニャンコ先生。2018年の劇場公開作『劇場版 夏目友人帳~うつせみに結ぶ~』のインタビューにて「ずっと携わっていたいなと思う作品」と口にしていた井上だが(参照)、願わくばこのままずっと神谷とのコンビで歩んでいってもらいたい。