『green diary』インタビュー

中島愛が語る、5thアルバム『green diary』で表現した“シンガーとしての意思” 記念碑的な1枚の制作秘話

「“大人になった中島愛”の曲も書いてもらいたかった」

ーーリード曲「GREEN DIARY」は、作詞・作曲・編曲がBBHFの尾崎雄貴さんです。1曲目とは打って変わって、王道の“まめぐポップ”という雰囲気ですね。

中島:そうですね。尾崎さんには「私のキャリアは“ランカ・リー=中島愛”というキャラクター名義から始まっていて、彼女の髪色が緑なんですよ」という説明から、20代での浮き沈みだったり、迷いながらも進んできたお話をさせていただいて。尾崎さんも同世代で若い頃から活躍されているので、「もし尾崎さんにもデビューからの道のりに思うところがあったら、その気持ちも入れてほしい」とお願いしました。そしたら、その打ち合わせを終えてすぐに光の速さでデモが届いて(笑)。その時点でメロディも歌詞もほとんど完成していたんです。尾崎さんからも「提供曲以上の意味を持つ曲が作れました」みたいな嬉しい感想をいただいて……。

中島愛 - GREEN DIARY (Full Ver.)

ーー中島さんの要求したものが、尾崎さんがもともと持っていた強い想いと合致していたということなんでしょうね。アレンジとしてはギターサウンドが軸になっていますが、わりとドリーミーな雰囲気もあって。

中島:「光と影のどっちも濃くないバランスにしたい」ということをお伝えしたら、すごくきらびやかな面を加えてくれたんです。無骨さがありながらキラキラ感もあって、かなりバランスの取れた気持ちのいい曲になったと思います。

ーー3曲目の「メロンソーダ・フロート」は作詞が児玉雨子さん、作編曲がSoulifeさんという布陣で。歌謡曲テイストも感じられる軽快なポップソングですね。

中島:王道アイドルソング風の味わいがある曲ならこの組み合わせだろう、ということで書いてもらいました。今の自分の年齢に合わせた、“大人になった私が歌う青春の歌”です。

ーーメロンソーダフロートをモチーフにするというアイデアは雨子さん発信ですか?

中島:「メロンソーダ」は私ですね。そこに雨子さんが「フロート」を足してクリームソーダにしてくれた感じです。クリームソーダって、子供の頃は親に「頼んでいい?」と聞いてからじゃないと注文できないものでしたよね。高校生くらいになって自分で頼めるようになってからも、意を決して頼むものだったり。その特別感を恋の背伸びと掛けた詞になっています。

ーーなかでも〈甘痛い〉というフレーズが見事で、まさに“雨子節”だなと感じました。クリームソーダを表すのに、そんな言い方があったのかと。

中島:〈甘痛い〉、いいですよね。みんなが思ってはいるんだけど言語化できていないことをどんどん言葉にしてくれて……もう、天才。天才としか言えない。しかも歌ったときに気持ちいい音なんですよ。歌詞で大事なのって語感だったり、メロディと合っているかどうかだと思うんですけど、そこも含めていい歌詞ですよね。「やっぱり自分で書くより、こういう技を持っているプロフェッショナルに書いてほしいんだ!」と改めて思いました。

ーー続いて、清竜人さんが手がけた「ハイブリッド♡スターチス」。スターチスという花にあまり緑色のイメージはないと思うんですけど、なぜこれを題材にしたんですか?

中島:レコーディングのとき、清さんに「いつこのワードが出てきたんですか」と聞いたら、「最初の打ち合わせの段階ですでに浮かんでました」という天才発言が返ってきました(笑)。最初にお伝えした要望としては「ハートをつけてほしい」ということと(笑)、「清さんから見ていじらしい、愛らしいと思う女性像を描いてほしい」と。大人になって「メロンソーダ・フロート」みたいな恋はもうないなあって思ってたはずのところに、ふいに訪れる溺れちゃう感じ、ちょっと盲目になっちゃう感じを表現したくて。

ーーそういうオーダーをしたら、歌詞の全ワードにハートがついて上がってきたと。

中島:まさか全部つけてくれるとは思わなかったですけど(笑)。色としては若葉のイメージで、「メロンソーダ・フロート」よりももっと浮き足立っている感じです。

ーーシングル曲「髪飾りの天使」を挟んで、次が宮川弾さん作の「粒マスタードのマーチ」。今作は新しい作家さんとのタッグがほとんどですけど、その中で久々に宮川さんを起用した理由は?

中島:今回は“ランカ・リーの緑色”という部分での原点回帰でもありつつ、自分の名前で出した1stソロアルバム『I love you』にも回帰したい気持ちがありまして。自分の音楽活動のベースになっている作品なので、当時お世話になった方に“大人になった中島愛”の曲も書いてもらいたかったんです。

ーーオーダーとしてはどんな感じで?

中島:日常の歌を歌いたくて。たとえば外で雨が降っていても、「今日は雨かあ……」じゃなくて「あ、雨なんだ」くらいのフラットさが欲しいですとお伝えしました。「何か歌詞に入れたい言葉はありますか?」と聞かれたので、〈あとまわし〉を入れてくださいと(笑)。〈あとまわし〉ってちょっとネガティブにも聞こえますけど、そうじゃなくて「明日できるなら明日でいいじゃん」的なメッセージなんです。今の世の中、本当にみんな気が張ってると思うので、だからこそこういう歌を歌いたいなと。もともと私自身が後回しにしがちな人間だということもあり(笑)。

ーー“不要不急ソング”ということですよね。言葉もメロディも本当に気を張っていない感じで、絶妙な湯加減です。

中島:歌詞については、「ダンスミュージック的な言葉の選び方をしてもいいですか?」と言われました。あまり意味をなさない感じで、口が楽しい歌詞なんです。〈おこしにつけたきびだんご〉とか、後にも先にもレコーディングすることはない言葉だろうなと(笑)。

ーー使われている楽器も、どれも肩の力が抜けていていいですよね。リコーダーとか木琴とか。

中島:そうですね。フリューゲルホーンとかも、弾さんがご自宅で宅録してくれたんです。その空気感も含めていいなあって。

ーー次がRAM RIDERさんによるディスコナンバー「窓際のジェラシー」。アルバムとしては、ここからデジタルサウンドのコーナーが始まる感じですね。一気に緊張感が増す流れになっていますけど、最初からそういう狙いだったんですか。

中島:そうです。自分の今の年齢感的に、まだまだ達観できてないなと思うことが多くて。どんなに淡々と生きようと思っていても、ふいに心を乱されたりする。その感じを表現しようと思って、わざと急に不穏になる展開にしました。

ーー前の曲が前の曲だけに、インパクトがすごくて。

中島:はい(笑)。

ーーボーカル的にも工夫が感じられます。ナチュラルに寄せた歌い方が多い今作の中では、もしかしたらこれが一番考えて歌った曲なんじゃないかなと。

中島:そうですね。これは基本的に気だるいテイストで歌ったんですけど、嫉妬ソングで気だるいだけだと本当にひねりがないというか(笑)。だからといって、わかりやすく可愛らしさを入れるのもつまらない。私は松田聖子さんが大好きで育っているので、意識せずに歌うと自然としゃくりを入れちゃうクセがあるんですね。そのポイントを先に決めておいて、余計なことをしない箇所と、あえて不器用に思いきり出すところを意識的に分けました。そういう意味では、確かに頭で考えて構築していった感じはあると思います。

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