北野創が選ぶ、2020年アニソン/声優音楽年間ベスト10 作品に寄り添ったLiSAらのヒット曲、鬼頭明里などソロ作品の充実

上田麗奈『Empathy

 さらに、声優としての職能を存分に注ぎ込んだ、声優だからこそ生み出し得た音楽作品と言えるのが、上田麗奈のアルバム『Empathy』。Kai Takahashi(LUCKY TAPES)、ORESAMA、笹川真生ら楽曲制作に携わった作家陣の豪華さと、彼らが生み出す音楽的な豊かさもさることながら、上田本人のテクニックよりも感情表現を優先したような〈演者・役者〉としての歌声、さらに彼女がこれまで演じてきたキャラクターたちとの〈Empathy=共感〉を形にした楽曲群が、聴けば聴くほど、そして彼女のキャリアを知れば知るほど深みを帯びていく、新感覚の一枚になっています。さらに声の表現で遊び尽くした実験的ポップス作品といった趣きのイヤホンズ『Theory of evolution』も、声優ならではの面白さが詰まったアルバムでした(過去記事)。

鬼頭明里『キミのとなりで』

 そして今年、TV番組をはじめ様々なメディアに出演して話題を集めた鬼頭明里も、ソロ作品やキャラソンで素晴らしい成果を残しました。2019年10月にアーティストデビューした彼女は、今年6月に1stアルバム『STYLE』を発表。UNISON SQUARE GARDENの田淵智也が書き下ろしたリード曲「23時の春雷少女」(編曲はやしきんとパスピエの成田ハネダ)をはじめ、キャッチー&パンチの効いたロックナンバーを多数収録した傑作パワーポップ盤だったのですが、それに続くシングル曲「キミのとなりで」がさらに素晴らしいものに。彼女自身が安達役で主演を務めるTVアニメ『安達としまむら』のEDテーマとなる本楽曲は、作中の安達の感情ともリンクする〈キミ〉への特別な想いを描いた、青春の美しさともどかしさを形にしたような心揺さぶる疾走ギターロック。作編曲を手がけたのは、鬼頭が新人時代から参加しているメディアミックス作品『Re:ステージ!』で縁の深い作曲家・伊藤翼というのもエモいポイントです。

Yunomi「恋のうた(feat.由崎司)

 そんな鬼頭が、キャラクター名義で歌唱しているのが、TVアニメ『トニカクカワイイ』のOPテーマとなるYunomi「恋のうた(feat.由崎司)」。和のエッセンスを取り入れたフューチャーベース系のサウンドで支持を集めるYunomiが、鬼頭演じる同アニメのヒロイン・由崎司をフィーチャリングアーティストとして迎えた、まさに次元を超えたコラボレーションです。そのYunomiやパソコン音楽クラブ、YUC'e、TEMPLIMEら気鋭のトラックメイカー/クリエイターたちが参加する音楽原作キャラクターコンテンツ『電音部』がスタートしたり、tofubeatsやケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)らが声優に楽曲提供する機会が増えていることを考えると、2021年はいわゆるEDM〜クラブミュージック由来のサウンドが、アニメ/声優ソングのフィールドにさらに新しい風を吹き込んでくれることになりそうです。

■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。

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