突如現れた詳細不明の表現者、Siipとは何者か 混沌とした2020年を浄化する、ポップミュージックの新たな分岐点

 人と人の間に“距離”を置かなければならなくなった時代。顔の半分をマスクで覆わなければならなくなった日々。未来へのやり場のない不安。そんな、“新しい生活”を日常として受け止める前に、聴いておきたい音楽がある。

 “シンガーソングクリエイター” Siip(シープ)が12月24日、初配信曲「Cuz I」をリリースした。

 Siipとは、特定のイメージを持たない神出鬼没のファントム(幻影)表現者。顔出しすることなく、自身が作品の意図を説明をすることもない。誤解を恐れずにいえば音楽シーンにおけるバンクシーのような存在だ。一点もののハンドペイント感覚によってクリエイションを広げ、ノンカテゴライズな歌声を響かせることで、インナートリップ・サウンドスケープを創出する。ゆえにSiipは音楽というアートの本質を突きつける。それは、過渡期を迎えているポップカルチャーの改革への示唆といえるかもしれない。まるでリテラシーを試されているかのようだ。

 そもそもSiip=シープとは“羊”を意味するワードであり、世界中の神話や宗教に逸話を持つ生き物だ。黄道十二宮の最初が牡羊座であり、過去にとらわれるより未来へ向かっていく性質を持つ。と同時に、村上春樹の小説『羊をめぐる冒険』では、自己主張のない日本人が意識操作をされ、集団ヒステリーや現人神崇拝に赴くことを“羊神話”に重ね合わせていた。ヨーロッパでは、意外にも牡羊は猪突猛進なイメージがあり、羊の乳のチーズは『ロックフォール』をはじめとして最高級品となっている。

 しかし、いま僕らの手元にあるのは、ステンシルにスプレーされたロゴの存在と、魔法めいた「Cuz I」1曲だけだ。

 「Cuz I」の詞曲やトラックメイクは、Siip本人がラップトップを前に一気通貫で手がけている。そのサウンドは洗練された自由度、上品で高貴な戯れ感を持ち、匿名性がありながらもポップかつアバンギャルドだ。

 サウンドのテクスチャーを司るミックスを、Lizzo、24kGoldn、HAIM、ケイティ・ペリー、セレーナ・ゴメス、チャーリー・プース、カミラ・カベロ、アリゾナ・ザーヴァスなどを手がけた、Chris Galland(Overseen by Manny Marroquin)が担当していることにも注目したい。決して、マイナーでアンダーグラウンドではない、ワールドワイドかつエバーグリーンな大衆性が魅力なのだ。

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