Lucky Kilimanjaro、ファンから不安な未来まで躍らせたツアー最終公演 全てを受け入れるユニークなステージを観て
これだけビートやジャンルの多彩さを誇りながら、シームレスに楽しめるのは歌詞ーーメッセージもごく普通の日常も含めた内容がリスナーに近いことが大きな理由だろう。これもラッキリのダンスミュージックが非日常・逃避的なものではない要因だ。すべての曲に、“この景色や感情知ってるな”という箇所があるのだが、新しいお気に入りのモノたちがちょっと不安な新しい日に向かう背中を押してくれるという「FRESH」にも、その名の通りの「新しい靴」にも“新しい靴”という具体的かつ少しの自信を与えてくれるメタファーが登場する。それをシンセリフのループで徐々に気持ちを盛り上げてくれる。さらに少しテンポダウンして歌を心のプロジェクターに投影できるようなタームが「とろける」や「君とつづく」で訪れる。センシュアルなラブソングかと思いきや羽毛布団の歌だという「とろける」は、別の意味でうっとりするし、〈歯ブラシをくわえたまま 靴下を履いている君〉という雑さを愛おしさが上回るであろう彼女との平和な日常と、密かに感じている退屈への予感を歌う「君とつづく」のリアリティ。ラッキリが踊らせようとしているのはフィジカルだけじゃない。せつなさとか未来への不安とか気持ちは様々な方向に揺れながら、でもごまかさず、嘘なく楽しい毎日にしていきたいと思わせる。言いたいことと、バンドに歌って欲しいことが呼応し合っていなければそんな気持ちになれないだろう。
また、音源とライブアレンジの違いについても、ラッキリのバンドアンサンブルは新鮮な音像を構築している。ライブならではのロー感はごく自然に生ベースとシンセベースを使い分けることでファンク色とハウスやエレクトロを行き来することに成功しているし、あえて“楽器をスイッチする”なんて表現は不要なほど山浦聖司(Ba)のプレイは自然だ。加えて、ライブでもスネアドラムは控えめ。そこはわざわざパーカッションとしてラミがいることの理由が分かる。柴田昌輝(Dr)がタムやシンバルをすべて担うのではなく、ラミの叩く電子パッドであったり、生で刻むハイハットであったりを分担しているからこそ生まれるモダンなダンスミュージックの聴感がある。ドラムのブロークンビーツとパーカッションがそれに呼応する緩急の楽しさは「DO YA THING」で、ライブならではの展開を見せてくれた。松崎浩二のギターもファンキーなカッティングやさりげないオブリガードが主で、それがメロウなイントロが際立つ曲でむしろ引き立つ。同期も含めるとかなり多くの音が鳴っているのだが、抜き差しが計算されていること、常にキックが踏まれているわけじゃないことで、ライブ特有の連続する低音のストレスがない。ダンスミュージックであると同時に歌を聴かせるポップスでもあるということ。これはLucky Kilimanjaroの強みだ。
加えて、本編25曲をほぼシームレスに、ほんの短いMCを挟んだだけであの言葉数の多い曲を踊りながら歌い切った熊木が飄々として見えること、実はこれが一番の驚きだった。2020年、思い切りアクセルを踏み込むことができなかったことへの悔しさや言い訳もなく、「踊れる? まだ踊れますか?」と問いかけ続け、アンコールの最後の最後に披露した「君が踊り出すのを待ってる」よろしく、彼はあなたが踊り出す楽曲を精査し、作り、鳴らして待っていてくれる。あらゆる人を受け入れたいーーLucky Kilimanjaro、そしてフロントマン熊木のビジョンがライブという現実に結実した瞬間を何度も見た。
ライブ中、発表された1月20日の先行配信曲「MOONLIGHT」、3月31日のニューアルバム『DAILY BOP』のリリース、そして4月4日に開催される日比谷野外大音楽堂でのライブという怒涛のインフォメーション。特に野音公演は日本の新しいライブの光景を作り出してくれそうで、今から楽しみでならない。
■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。