大橋彩香、伊藤美来、中島由貴、ニノミヤユイ……アーティストとしての個性確立させる“声優ガールズポップ”4作品

 アニメ音楽やその周辺の新譜をキュレーションする本連載。今回は「声優ガールズポップ」という切り口で4作品をピックアップします。というのも、これから年末にかけて、女性声優によるソロ作品が充実しているから。声優は声のプロフェッショナルなので、歌声にもそれぞれの個性や表現力の違いが明確に表れます。なおかつ、ソロでのアーティスト活動の場合、その人のパーソナルに寄り添った作品作りが行われ、作詞家・作曲家・編曲家ほか様々なクリエイターの力添えにより、音楽的にも「個」をしっかりと確立した作品になるケースが多いです。ここで紹介する4タイトルも、他にはない魅力を持った作品ばかり。ぜひ彼女たちの「声」に、耳を傾けてみてください。

大橋彩香『WINGS』【初回限定盤】

 最初にピックアップするのは、大橋彩香のニューアルバム『WINGS』(12月16日発売)。2014年にアーティストデビューして以来、コンスタントにリリースを重ね、2021年には千葉・幕張メッセイベントホールにて自身初の単独アリーナ公演を行うことも決まっている彼女。『アイドルマスター シンデレラガールズ』の島村卯月役としてアイドル活動を行うほか、『BanG Dream!』ではPoppin'Party・山吹沙綾役で特技のドラムを演奏、さらにNHK BSプレミアムで放送中の番組『みんなDEどーもくん!』では「歌のおねえさん」としてレギュラー出演するなど、マルチタレント化が進む声優シーンにおいて、最も幅広く活躍する声優の一人と言っても過言ではありません。

 通算3作目のアルバムとなる『WINGS』は、そんな彼女の歌唱スキルが存分に発揮された一枚。特に水野良樹(いきものがかり)が楽曲提供したリード曲「START DASH」は、澄み切った青空のような広大さを感じさせるサウンドと、そのなかを伸び伸びと羽ばたくように歌う彼女のハイトーンが最高に爽快なポップチューンです。その一方で今回のアルバムには、DECO*27提供の高速ロック「HOWL」、分厚いギターが印象的なダンスナンバー「Winding Road」、GRANRODEOのe-ZUKAこと飯塚昌明によるハードポップ「MASK」といったエッジーな楽曲も収録。ひとりぼっちのクリスマスの寂しさをポップに弾き飛ばす「キミがいないクリスマスなんて」、歌謡曲っぽい哀愁メロディを切なくも力強く歌いこなした「NOT YET」、童謡のように優しい世界観の「お月さま」など、多彩な曲調を自在に表現する歌唱センスはピカイチです。

大橋彩香 – START DASH [Official MV]
大橋彩香 3rd Album「WINGS」全曲試聴動画

 続いて紹介する伊藤美来は、『BanG Dream!』の弦巻こころ役や『プリンセスコネクト!Re:Dive』のコッコロ役などで知られる声優。豊田萌絵との声優ユニット・Pyxisとしても音楽活動を行っており、そちらではアイドルっぽさを前面に出したハイテンションな楽曲が中心ですが、ソロではより等身大な音楽性を志向。ピュアネスな魅力が封じ込められた1stアルバム『水彩 ~aquaveil~』(2017年)、シティポップ的な洗練性も感じさせた2ndアルバム『PopSkip』(2019年)と、充実した作品を発表してきました。

伊藤美来『Rhythmic Flavor』【BD付き限定盤】

 それらに続く3枚目のニューアルバム『Rhythmic Flavor』(12月23日発売)は、これまで以上にバラエティに富んだ楽曲にチャレンジした意欲作。チル〜ローファイ感のあるファニーな打ち込みポップ「BEAM YOU」では、シンガーソングライターの竹内アンナが歌詞を提供。伊藤と同年代の女性だからこそ書ける絶妙なニュアンスの女心とポップさが、主役のキュートな魅力と化学反応を起こした中毒性の高いナンバーに仕上がっています。アルバムには他にも、ゆいにしおが楽曲提供した自分らしさをガーリーに主張する「hello new pink」、本人作詞による華やかなブラスポップ「Good Song」(作編曲はfhánaの佐藤純一)、そしてCharaが作詞・作曲、Kai Takahashi(LUCKY TAPES)が編曲したメロウソウル「vivace」などを収録。彼女の甘い声質の美点を高品質な楽曲と共に味わえる逸品になっています。

伊藤美来 / BEAM YOU
伊藤美来 / Good Song

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