lynch.は私達を輝かしい未来へ連れていってくれるーーファンと久々の再会果たした日比谷野音公演を振り返る

 様々なフェスに登場しては話題をかっさらい、コロナの影響で大打撃を受けたライブハウスへの支援プロジェクトは新聞に取り上げられるなど、今“日本で最も劇的なバンド”、lynch.。2020年は15周年ということで本来予定していたライブがことごとく中止となったが、実に半年以上ぶりの有観客でのライブ『LIVEʼ20 “FACE TO FAITH” at 日比谷野外大音楽堂』が決行された。

 久々の再会であること、長いライブロスでファンもメンバーも鬱憤が溜まっていること、この5人で初の野音となること。様々な条件が重なり、特別なライブになる予感は確かにあった。だが、このライブが宿命の時の序章になるとは誰も予想していなかった。

 ビルの隙間から白んだ半月が顔を覗かせる、雲一つない快晴の都心。日が落ちかけたその時、宵闇を引き連れて荘厳なSEと共に彼らはステージに現れた。久方ぶりのステージをゆっくり踏みしめる姿とは裏腹に、瞳の奥には獰猛な飢えを宿している鴉達。この日は大声を出してはいけないというコロナ対策のアナウンスがあったため、影達は声の代わりに拍手とは名ばかりの破裂音でメンバーを待ち構える。ずっと待ち望んでいた葉月(Vo)の「lynch.です、よろしくお願いします!」という恒例の挨拶と共に、電子音が砲弾のように飛んでくる。「やろうぜ野音!」と「OBVIOUS」で火蓋が切って落とされる。一挙手一投足にこれまでの鬱憤を吐き出すかの如く、メンバーは全身から怒涛のオーラを放つ。楽器隊の演奏、コーラス、そして葉月のシャウト。どれもいつもより一段と熱を帯びて、身体の芯を揺さぶるエネルギーに満ちている。準備運動はここまでだ、と言わんばかりに「ようこそ! 処刑台へ!」と「GALLOWS」を投下。つんざくようなシャウトで空から光を奪っていく葉月。低い姿勢から超低音のガテラルを繰り出す様は野性そのもの。牙を剥き出しの獣と対峙したフロアは頭を激しく振って応戦する。

 気づけば辺りは黒に包まれ、一層物々しい雰囲気の中「GREED」、「GROTESQUE」と続き、ステージ上の火照った雄達は妖艶な色気を撒き散らしていく。前回の野音で不在だった明徳(Ba)が想いを述べたMCを挟み、「EVOKE」、「MIRRORS」とアグレッシブな楽曲を連ねていく。本来であればフロアから大合唱が響く2曲だが、葉月はいつも通りに煽り、フロアが歌えるように隙間を作る。実際にフロアから歌声が聴こえてきているわけではない。だが、たしかに前回の無観客配信ライブの時より鮮明に大合唱の幻影が脳内を行き交う。ボルテージを上げていくフロアへ「今日はお前らの手をパンパンに腫らせて帰るからな!」と「BLØOD」、「UNTIL I DIE」で追撃し、前半戦は攻撃の手を緩めず進行した。

悠介(Gt)

 暗転して闇に包まれたステージから「an illusion」が繰り出されると、悠介(Gt)の十八番ともいえるディレイサウンドと極彩色の照明が絡み合い、夜空に会場ごと飛んでいくような浮遊感を覚える。「BE STRONG」で屋外の冷気を取り込んで会場の空気が深々と張り詰めた後、炎の明かりの中「SORROW」が紡がれる。曲中の〈悲しい思いをさせてしまったね〉の言葉がいつになく悲壮感を帯びる。また、楽曲最後で葉月がアカペラで歌い出すと、会場は衣擦れの音すら気取られるような緊張感と静寂に包まれた。呼吸すら忘れた次の瞬間、「PLEDGE」が限界まで張り詰めたガラスのような空気を叩き割っていく。さらに「ここからは皆さんの大好きな暴れる曲が続きますから! やっちゃってもらっていいっすか!」と「CREATURE」、「EVIDENCE」、「FAITH」と烈火のごとく畳み掛け、歌モノを続けて惹きつけたフロアを一気に燃やす。

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