久保田利伸、ボサノヴァ&ラヴァーズ・ロックで生み出した豊かな音楽空間 ブルーノート東京公演最終日レポ

久保田利伸ブルーノート東京公演レポ

 久保田利伸が2020年11月12日から25日にかけて、ブルーノート東京でスペシャルライブ『Bossa & Lovers Rock Night』を開催した(計6日間12公演)。この公演のテーマは『Bossa & Lovers Rock Night』というタイトル通り、ボサノヴァ、ラヴァーズ・ロック(レゲエ)。自身のヒット曲、カバー曲を交えながら、普段のライブとはまったく異なる雰囲気ーー彼の言葉を借りれば“ボサノヴァとレゲエの波に乗り、癒し合う”ようなーーステージを繰り広げた。

 1986年のデビュー以来、常に最先端のブラックミュージックを反映させた楽曲を生み出し続け、ジャパニーズR&Bを牽引し続けている久保田利伸。ジャズとラテンが融合したボサノヴァ、そして、アフリカ、アメリカ、ラテンの影響を受けて発展したラヴァーズ・ロックは、彼自身のルーツとも強く結びついている(ちなみに久保田は、“Parallel World Series”と称し、1991年にレゲエに特化した『Parallel World I "KUBOJAH"』、2013年にはボサノヴァをフィーチャーした『Parallel World II KUBOSSA』をリリースしている)。初のブルーノート東京公演の最終日(11月25日)でも久保田は、多様性と解放感に溢れた、きわめて豊かな音楽空間を生み出してみせた。

 会場の照明が落とされ、まずはバンドメンバー(川口大輔/Piano&Key、森大輔/Key&Vo、YURI/Vo&flute、小池龍平/Gt、SOKUSAI/Ba、中島オバヲ/Per、天倉正敬/Dr)がステージに登場。セルジオ・メンデスの名演で知られる「Mas Que Nada」でオープニングを彩る。曲のエンディングで久保田利伸がステージに上がり、笑顔で観客に挨拶。次の瞬間、シックな手触りのギターとともに「The Shadow of Your Smile」(アストラッド・ジルベルト)によって“美しい憂い”と呼ぶべき雰囲気を作り出す。洗練されたバンドサウンド、ジャズのエッセンスを含んだ川口大輔のピアノも素晴らしい。

 「今夜はゆるーいボサノヴァとゆるーいレゲエ、それだけでやっていきますので。ボサノヴァのゆるいフロウ、ラヴァーズ・ロックの優しいフロウに乗っかって、癒し合いましょう」というMCの後は、代表曲「LA・LA・LA LOVE SONG」のボッサバージョン。穏やかなアコースティックギターの響きとソウルフルなフェイクにイントロから、〈まわれ まわれ メリーゴーラウンド〉というフレーズが聴こえてきた瞬間、客席に歓喜の表情が広がる。最後にテンポを上げ、ラテンの香りを放つアレンジも楽しい。さらに今年亡くなったビル・ウィザースのソウル・クラシック「Lean On Me」を軽快なレゲエのビートに乗せ、The Isley Brothersの官能的なラブソング「Between The Sheets」を深いフロウとともに歌い上げる。男の色気に溢れた歌にどっぷり浸っている観客に向かって、「ちょっといま入り込みすぎたかな……みなさんのせいです」と笑いを取る姿もチャーミングだった。

 「今年は特別な年になりました、僕にとっても、みなさんにとっても」「色々調べたり、色々考えました。世の中のこと、人間のこと、世界のこと、自分のこと」「それがたまっていって、曲を夏くらいに作りました」という言葉とともに披露されたのは、「空の詩」。ワルツのリズム、ボサノヴァのフレイバーを醸し出すバンドサウンド、そして、〈はき慣れない靴鳴らして 幸せのかたち作りに行こう〉というラインが共鳴するシーンは、2020年の久保田利伸を象徴していたと思う。

 ビル・ウィザースのロマンティックなラブソング「Hello Like Before」を歌い上げた後は、会場に来ていたフリューゲルホルン奏者のTOKUを呼び込み、ぶっつけ本番のセッションへ。楽曲はやはりビル・ウィザースの歌唱で知られるソウル・クラシック「Just The Two Of Us」。ジャズを軸にしながら、R&B、ソウル、ヒップホップなどのアーティストとコラボレーションを続けているTOKUの貴重なコラボレーションは、ルーツミュージックに根差しつつ、ジャンルの枠を超越した今回のライブのあり方を端的に示していた。

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