藤原さくら『SUPERMARKET』は、どう生み出されたのか 参加ミュージシャン/プロデューサーの証言から現在の音楽性に迫る

 シンガーソングライター藤原さくらによる、通算3枚目のフルアルバム『SUPERMARKET』がリリースされた。

 本作には、OvallやYAGI & RYOTA(SPECIAL OTHERS)、Yasei Collective + 別所和洋といった、藤原をデビュー時から支えてきた面々に加え、昨年のライブハウスツアーを共に回ったTwilight Hot Guys(須田洋次郎、猪爪東風、渡辺将人)や、以前コラボ経験のある冨田恵一、さらには今回「初タッグ」となるスカートこと澤部渡、VaVaら豪華ミュージシャン/プロデューサー陣が参加しており、シティポップ〜AORからヒップホップ、ジプシージャズ、さらにはソリッドなインディーロックまでをも取り込んだ、実に振り幅の大きな作品に仕上がっている。

 アルバムの初回限定盤とアナログLPには、筆者が行った藤原さくらと参加ミュージシャン/プロデューサーそれぞれによる、およそ3万字のロングインタビュー『楽しいことへ向かっていくために』が掲載されており、本作『SUPERMARKET』がどのようなプロセスを経て生み出されたのか、当事者たちの証言をもとに振り返っている。本コラムでは、そのロングインタビューにおける藤原や各ミュージシャン/プロデューサーの発言を引用しながらいくつかの楽曲について解説をしていきたい。

 アルバム冒頭を飾る「Super good」は、Ovallプロデュースによるファンクチューン。当時、コリー・ウォン(Vulfpeck)にハマっていた関ロシンゴ(Gt)が、ギターカッティングのデータを藤原に送り、それをもとに藤原が曲の骨子を作り上げてレコーディングされたものである。ちょうど自粛期間の只中だったためリズム録りはリモート。mabanua(Dr)は設立したばかりのプライベートスタジオを使ってジェームス・ギャドソン風のドラムサウンドに近づけたという。離れた場所で演奏したとは思えぬほど、息の合ったアンサンブルを繰り広げている。

「まあ同じバンドでずっとやっているし、さくらちゃんのイメージをこういうふうに言えば、こう返してくれるだろうみたいな。その辺の信頼関係があったので、リモートでもいけるだろうと」(関口)

「これが、知らない人との初めてのセッションだったら、話はまた変わってきたかもしれない」(mabanua)

藤原さくら - Super good(Alternative Video)

 その、関ロシンゴが単独でプロデュースを務めた「Waver」は、藤原が関口のソロ曲「North Wing」にインスパイアされてできた楽曲である。デモの段階ではテイラー・スウィフトの「Shake It Off」を彷彿とさせるような軽快な曲調だったが、なんと藤原はそれを、レイドバックしたアレンジにしてほしいと関ロにリクエストした。

「確か『D'Angeloみたいにしたい』とも言われた気がする。Taylor SwiftとD'Angeloって『水と油』くらいかけ離れているじゃない? すごい無茶ブリだなと思った(笑)」(関ロ)

 試行錯誤の末に完成したこの曲は、夜明けの海が朝日をキラキラと反射させているような、穏やかで荘厳な美しさをたたえている。

藤原さくら – Waver (Alternative Video)

「今回、さくらさんと一緒にやってみて思ったのは、プロデューサー的な視点を持っている人なのだなということ」

 そう話すのは、今回「Monster」と「コンクール」の2曲でプロデュースを務めた冨田恵一だ。2人の交流は、冨田が5枚目のソロアルバム『SUPERFINE』(2016年)に、藤原をゲストボーカルとして招いたことから始まっている。2曲のうちの一つ「Monster」は、関ロと共に作った「Waver」と同様、デモの段階では全く違うものだったという。

「元の曲はメジャーキーで、ギターが中心のシャッフル曲だった。(中略)実際にさくらさんから送られてくるレファレンスは、デモとは全くかけ離れた曲調ばかりだったんだよね(笑)」(冨田)

 結果、生み出された楽曲は、「自分一人で考えていたら絶対に辿りつかなかったアレンジ」と冨田に言わしめるほどスリリングでゴージャス。反復するベースラインの上で、躍動感たっぷりのパーカッションとゴスペルのようなコーラスが徐々に盛り上がっていく様は圧巻である。

藤原さくら - Monster (Music Video)

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