『長岡米百俵フェス ~花火と食と音楽と~ 2020』が示した未来への道しるべ ぬくもりと不屈の精神で踏み出した一歩

 2日目にはヒップホップシーンで活躍するミュージシャンの出演も。今や日本一のヒップホップグループの1組となったCreepy Nutsは観客の歓声が無くとも会場の温度をグッと高めた。KICK THE CAN CREWのステージには日本語ラップの先駆者であるいとうせいこうがサプライズ出演。16小節のためにいとうが長岡に駆け付けるという、贅沢なステージとなった。

 2日目の終盤には邦楽の大御所たちが立て続けに登場。さだまさしが持ち前のトークで会場をさだモードへと一気に切り替えてしまいつつも、「北の国から~遥かなる大地より~」の合間に美空ひばりの「川の流れのように」を組み込む展開で会場を驚かせた。南こうせつのステージにはバイオリンとしてさだまさしが、コーラスとして前日に出演したwacciの橋口洋平(Vo / Gt)が登場。同じ世代のミュージシャンとして共闘してきたさだ、そして世代の異なる橋口の3名によるこの日だけの貴重なコラボレーションで歌われた「神田川」には誰もが胸躍ったことだろう、2日目大トリには小林幸子が登場。南のステージに続き、小林のステージにもさだが登場するサプライズもありつつ、近年話題となった「千本桜」のカバーで会場を盛り上げた。

 音楽フェスのラインナップを語るとき「バラエティに富んだ」という枕詞を見かけることは多いが、『米フェス』ほどジャンルレスで、老若男女、世代の壁を越えたフェスは他にないだろう。初日に出演した中澤卓也も「このフェスに参加した人は皆、親戚だ」とMCで語っていたが、まさしくこの『米フェス』の様は「親戚の集まり」のようだった。長岡という「地元」の食材やアーティストにこだわり、世代に関係なく楽しめるラインナップ。そこには年齢も趣味嗜好も超えて、年に1、2回地元に集まって料理を囲み、昔話や近況に花を咲かせる「親戚の集まり」のような安定感と特別感、そしてぬくもりがあった。他にはない、優しく、そしてやわらかい雰囲気に満ちたフェスであった。

 同時に、タイトルに「不屈の」という言葉が掲げられたように、今回の『米フェス』開催には幾多もの壁が立ち塞がった。昨年の『米フェス』は台風の影響で中止。今年に入って起こったコロナウイルスの感染拡大。そして今回もまた、台風の発生で開催そのものが危ぶまれた。しかし今年は徹底した感染対策が講じられ、心配された台風も大きく逸れ、2日目は暑い程の日差しが長岡の地に注いだ。主催者、関係者、出演陣の転んでも起き上がる「不屈の闘志」が生み出す徹底した感染対策となんとしても成功させるのだという覚悟が無ければ、きっと開催には至ってなかっただろう。主催者や出演者のエンターテインメントという灯を絶やさない強い思いと覚悟に、ただただ頭の下がる思いだ。

 コロナ禍で未だエンターテインメントは苦境に立たされているが、確実に1歩ずつ歩みだしている。米百俵の精神から生まれた今回の『米フェス』は、人のぬくもりと不屈の精神で踏み出した、未来への道しるべとなる大きな大きな1歩だ。この歩みを絶やすことなく、この他とない唯一無二の雰囲気を持つフェスが来年も長岡の地で開催されることを心待ちにしたい。

長岡 米百俵フェス 〜花火と食と音楽と〜 2020 オフィシャルサイト

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