『TOKYO SINGING』インタビュー
和楽器バンドが世界に発信する、“東京”の現在と未来 コロナ下に生まれた新作『TOKYO SINGING』インタビュー
「東京」は、和楽器バンドの衣装や音楽性にも通じる(鈴華)
ーーそしてタイトルが示すとおり、東京を世界に向けて発信していくというメッセージも強く感じますね。
鈴華:私は茨城県の水戸出身ですが、東京も大好きなんですよね。「東京」と一言で言ってもいろんな顔を持っているじゃないですか。例えば六本木は海外の方が多かったり、原宿は若者の街だったり。歌舞伎町のような喧騒があるかと思えば、皇居の周りは京都のような雰囲気もある。浅草のような下町も外せませんよね(笑)。そういう、多様性に溢れた「東京」は、和楽器バンドの衣装や音楽性にも通じると思っていて。今回、私たちが掲げた「from Tokyo to overseas」というテーマは非常に和楽器バンドらしいと思いましたし、私たちにしか出来ないアルバムになると確信しましたね。
町屋:僕は渋谷が大好きで、和楽器バンドの「渋谷担当」だと思っているんですよ(笑)。日本は先の戦争で負けたことによって、様々な文化がごった煮のように混じり合っている。そのミクスチャーな感じが「日本らしさ」ともいえると思うんですよ。その象徴が東京であり、色彩豊かに凝縮したのが渋谷ではないかと。ただ、渋谷が「最先端の街」なのかというと、そうでもない。僕は、何かに特化した街だとはあまり思っていないんですよね。アート、音楽、ファッション……あらゆるカルチャーがポップに楽しめるのが渋谷の魅力だと僕は思っています。
山葵:今回、僕が作詞作曲を手掛けたのはリード曲「Singin' for…」ですが、実はそこまで「東京」ということは意識していたわけではなくて。ただ、自分の作業場が今オフィス街にあって、コロナ禍になる前はランチタイムになるとビジネスマンで賑わっていたのが、自粛期間中はまるでゴーストタウンのようになってしまって。その中で一人、作業場にこもって曲作りをしていたので、本来あるべき姿ではなくなってしまった場所で感じたこととか、無意識に反映されている部分はあると思います。
ーー「Singin' for…」はシンガロングするパートがふんだんに盛り込まれていて、「早くライブでこれを聴きたいな」と思わせますよね。
山葵:おっしゃる通りです。僕ら本当は2月と3月に『大新年会2020』を開催する予定だったのが中止になり、誰が悪いわけでもないのでやるせない気持ちを抱えながら曲作りを行なっていたので。先日開催された『和楽器バンド 真夏の大新年会2020 横浜アリーナ ~天球の架け橋~』でようやくこの曲を披露することができて、とても感慨深いものがありました。ちなみに、この曲で僕がイメージしていたのは「『Loud Park』にギリ出られそうな楽曲」です(笑)。
町屋:なるほどね(笑)。確かにキメの部分とかそれっぽい。
ーー町屋さんは今回、どんなふうに楽曲を作っていきましたか?
町屋:僕はいつも楽曲を作る時にまずタイトルを考えるんですよ。そこから着想を深めていく。例えば「Calling」はアルバム冒頭曲なので、ある意味ではダイジェスト版というか、トレーラーみたいな役割を担いつつ、一つの楽曲としても完成されたものにしようと思いました。今回は、基本的に前向きになれるハッピーエンドに持っていきたかったので、途中でグッと下がったとしても最後は「Singin' for…」で上がれるような曲順にしましたね。
ーー例えば「ゲルニカ」などは、かなりディストピアな世界観を描いていますよね。
町屋:スペイン内戦を描いたピカソの『ゲルニカ』を、近未来に起こるかもしれない『第三次世界大戦』の世界に置き換えたらどうなるか? を想像しつつ舞台を渋谷にして遊んでみました(笑)。ちなみに歌詞に出てくるフレーズ、“ F-35A”は戦闘機、“Type 10Tk”は10式戦車など、要するに自衛隊の現在の最新装備なんです。
ちなみに「日輪」は6バージョンくらい僕の中にあって、その中で一番いい「日輪」を使いました。まあ、それでいうと「Calling」も「ゲルニカ」も幾つかバージョンがあるんです。まず曲名を決めて、同じテーマで何曲か書いてみて、その中で一番気に入った曲を詰めていくという流れなんですよね。で、「日輪」に関しては1年前から書き始めていて、1年かかってようやく最新バージョンで納得いくものができた。
ーー画家が習作を重ねたのち大作に取り掛かるのに似た感じですかね?
町屋:おそらくそうだと思います。
ーー「日輪」は途中、〈豹は死して皮を留む あに偶然ならんや〉という、鈴華さんの詩吟が出てくるところも印象的です。
鈴華:詩吟を入れるロックバンドなんて私たちくらいしか他にいないし、今作でもどこかで入れたいよねという話はしていたんです。それで4つくらい候補のフレーズを提案して、その中からテンポ感や言葉の響きなども含めてまっちー(町屋)に選んでもらいました。
〈豹は死して皮を留む あに偶然ならんや〉は『大楠公』という漢詩の一節で、「豹や虎は死んでも美しい毛皮を残すが、人間も死んだ後に名声を残す。生前から自分の名誉を汚さないように、死後も褒め称えられるような一生を送るよう心掛けなければならない」という意味です。作者は徳川斉昭。実は彼も水戸出身、水戸藩の藩主だったんですよ(笑)。
山葵:今回、演奏面で一番大変だったのがこの「日輪」ですね。あの速さであのビート感の曲は、今までの和楽器バンドにはなかったので。もともとメタルで音楽に目覚めた人間ではあるのですが、久しくこういうアプローチはしていなかったから大変でした(笑)。