BLACKPINK、1stアルバム『THE ALBUM』レビュー:グループの“今”を徹底的に描き、ネガティブな感情にも触れた作品に

 2020年10月2日、ついにBLACKPINKの1stアルバムがリリースされた。タイトルは『THE ALBUM』。世界中のBLINKたち(ファンの呼称)がこの日を心から切望していたことを踏まえれば、これ以上に適切なタイトルは考えられないだろう。やっと目の前に「アルバム」が現れたのである。

『THE ALBUM』

 『THE ALBUM』の事前予約枚数は全世界累計で100万枚を突破しており、これは韓国の女性グループ史上初めての記録となる(詳細:Kstyle)。この内、およそ3分の1はUS・ヨーロッパからの予約であるという事実からも、BLACKPINKの世界進出の成功を強く実感することが出来る。今やK-POPファンだけではなく、世界中のポップミュージック好きから注目を集める本作は、今年最も注目されているアルバムの一つと言っても過言ではないだろう。

 一方で本作には2019年以前に発表された「DDU-DU DDU-DU」や「AS IF IT'S YOUR LAST」といったヒット曲は収録されておらず、全8曲/24分というミニマルな作りのアルバムとなっている。先行シングルとなった「How You Like That」(関連記事)とフィーチャリング・ボーカルにセレーナ・ゴメス、作曲にアリアナ・グランデという二人の世界的ポップ・アーティストを迎えたことでも大きな話題となった「Ice Cream」で幕を開ける本作は、徹底的に「今のBLACKPINK」を描いた作品となっている。

"BLACKPINK"を再定義し、一方でメインストリームを射程に収める新曲群

 本作に収録された新曲の1つ目となる「Pretty Savage」は、近作のシングル曲の路線を踏襲した、BLACKPINKが所属するYGエンターテインメントらしいEDMとヒップホップの影響下にあるトラップビートの強烈なサウンドが印象的な楽曲だが、そのリリックは過去最高レベルに攻撃的である。冒頭のLISAのヴァースでは、自身の体型に対する批判に対して〈Born skinny, bitch. 암만 살쪄도 난 마름〉「生まれつきの痩せ型なんだよ、ビッチ。どれだけ脂肪を取っても気にしない。私は痩せてんだよ。」と応戦し、ROSÉも〈Yeah, we some bitches you can't manage〉「そう、私たちはあんた達の手には負えないbitches。」とカースワードを使って相手を煽り立てる。ヘイターに対してボースティングを行うのは、BLACKPINKの楽曲ではよく取り入れられる構図ではあるが、LISAのリリックを筆頭に、本作ではこれまで以上に踏み込んだ表現をよく見ることが出来る。

「Pretty Savage」

 実は、「美しい、可愛らしい」を意味する"Pretty"と「凶暴、半端じゃない」を意味する"Savage"を合わせた「Pretty Savage」というタイトルは、"PINK"と"BLACK"の側面を併せ持つ"BLACKPINK"と同じ意味を指す。この言葉は2018年の「DDU-DU DDU-DU」でも使われており、本楽曲は実質上のセルフタイトルとも言えるだろう。改めて"BLACKPINK"を"Pretty Savage"と定義する本楽曲は本作の中でも特にファンからの評価が高く、ストリーミングでの再生回数もリリース直後から非常に伸びている。過激な楽曲であるため期待は禁物だが、MVの制作やプロモーションでのパフォーマンスを楽しみに待ちたい。

 一方で、現行ヒップホップシーンを代表するラッパー、Cardi Bが参加した「Bet You Wanna」は初の全英語詞となっており、「Ice Cream」に続いて明確にUS・UKを中心としたメインストリームに狙いを絞った楽曲であると言えるだろう。「Ice Cream」同様にヒットメーカーのTommy BrownとMr. Franksをプロデューサーに迎えた本楽曲は、前曲から一転して、隙間を活かした音の配置や、コーラスを多用してキャッチーな歌声を立たせるアレンジなど、YGらしさは薄く、現行ポップシーンと並べて遜色ない仕上がりの一曲となっており、ラジオを中心とした長期的なヒットに期待したいところだ。現在ヒット中の「WAP」では放送不可能レベルのリリックを披露したCardi Bも今回はBLACKPINKのイメージを考慮したのか、持ち前の過激さは控えめに、クリーンなワードのみでクールにラップを決め、見事に場を盛り上げる役目を果たしている。

「Bet You Wanna」

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