FKAツイッグス「sad day」息を呑む7分半の映像美 ヒロ・ムライとのタッグでこそ描けた“再会”の物語

FKA Twigs『Magdalene』

 FKAツイッグスは、2014年の『LP1』で世間を驚かせた、オリジナルな音楽を奏でるアーティストであり、昨年のグラミー賞授賞式でポールダンスを披露したように、身体能力の高さでも知られる。そして、彼女が有名な理由のもう一つは、映画『トワイライト』シリーズで人気の頂点を極めたロバート・パティンソンと交際し、婚約までしたのに2017年に破棄されたこと。この失恋は彼女を徹底的に打ちのめし、リリース時の資料でも「完全包囲でもされたように、まったく身動きができなかった」と話している。そこから立ち直る過程で、夢中で体を鍛えたのだとか。『トランスフォーマー』のシャイア・ラブーフや、有名ファッションエディターと交際したり、最近ではThe 1975のマシュー・ヒーリーとのデートを目撃されたりもしているがーーツイッグスはかなりのモテ女でもあるーー4年ぶりの新作『Magdalene』はやはり失恋が影を落としている。「sad day」については、「恋人に戻ってきて、哀しませたかもしれないけれど、またリスクを冒してくれないかな、と歌っている曲」と説明している(参照:i-D)。

 さて、「sad day」のビデオはマリア=ツイッグスの妄想落ちかと思いきや、空想で刺し違えた彼が同じ時間に店内に入ってきて終わる。予知夢だったのだ。最後に流れる曲は、「mirrored heart」。「鏡合わせのハートを持った恋人たちを見るたびに/あなたを失ったことを思い出す」と歌う、またもや失恋の曲なのだが、その歌声には祈るような浄化作用がある。鍛え抜いた体躯と儚い歌声という組み合わせは、正邪を併せ持つマグダラのマリアの中に自分を見出した彼女らしいとも言えるだろう。以上を踏まえて、もう一度ビデオを鑑賞してほしい。そのあとに、ぜひ『Magdalene』のFKAツイッグスの天才を、確認してほしいのだ。

■池城美菜子
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絶滅危惧種の洋楽専門ライター/翻訳家、ときどき映画評。訳書『カニエ・ウェスト論』、『How To Rap』。著書『ニューヨーク・フーディー』、『まるごとジャマイカ体感ガイド』。www.kusege3.com

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