天月-あまつき-、“歌い手の原点”と“10年の軌跡”感じさせた特別な2日間 5万人と分かち合った幕張メッセ無観客生配信ライブ

 2日目も、アコギソロとマサえもんとの会話パートからスタートするところは同じ。だが、1曲目の「イデア」が始まると、1日目とうって変わってハードな雰囲気に。「Rock&Cool」がコンセプトの2日目では、初日に見せた甘くかわいらしい雰囲気を拭い去り、髪に赤メッシュを入れ、ロングの切り替えの黒ジャケットを身につけた天月は、疾走感のあるバンドサウンドに乗って力強く歌う。

 照明を抑えた薄暗い中、「This Night」では炎が吹き上がり、「Mr.Fake」ではレーザーの閃光が縦横無尽に走る光の演出が際立って、会場はクラブのようなダークでオトナな雰囲気に。「遊ぼうぜ!」と呼びかける声もアグレッシブだ。 まふまふ・nqrseの提供曲である「ヒロイックシンドローム」では、高速BPMとシンセサイザーを思い切り効かせた尖ったメロディと、突き抜けるようなハイトーンボイスが炸裂した。

 「小さな恋のうた」「きみだけは。」「ホシアイ」を経て転換。スパンコールの光るナポレオン衣装に着替えた天月が披露するのは、「儚きゴースティング」。腰を使い、指先まで艶やかに魅せるダンスがセクシーだ。荘厳なチェロの音色で始まる「マリオネットラヴァーズ」、会場中の照明が明滅する中歌われる「Ark」は力強い声が伸びやかに広がって気持ちがいい。アップテンポなナンバーが続く2日目、息つく暇もなくステージに目を凝らしているうちにあっという間に時間が過ぎていく。

 「無観客なら幕張メッセでやる必要はなくて、普通のライブハウスとかでやればよかった。でも、今までライブをやるにあたって世界観を決めたり、僕の作った楽曲に素敵な動画や絵、演奏をつけてもらって、天月というものが成り立っています。そうなった時に、作品たちを少しでも見劣りさせるのは嫌だなと」と、このライブへのこだわりを語る。

 「流れ星」では、ステージから上がるスパークラーと明滅する会場中の光が、満点の星空のような景色を見せる。「悲しいことだってたくさんあった! くじけそうになった時だってたくさんあった! でもやっぱり楽しくて、楽しくて、やめられるワケがないだろう!」と叫びつつも、噛んでしまってはにかんだ表情が印象的だった。

 アンコールの「スターライトキセキ」の後には、いくつかの告知が発表された。8月31日より、オリジナル楽曲4曲(「Letters to me」「カラフルタッグチーム」「アイビー」「儚きゴースティング」)がデジタル配信されること。自身のアパレルのポップアップショップの各地での開催が決定したこと。音楽プロデューサー・本間昭光とのウィンターソング制作中ということ。それと合わせて、ライブ2daysで累計5万人の視聴があったことを報告し、感謝を述べる。

 そして、改めてこのライブ、今までの10年について話し始めた。「ライブをやろうとしたけど誰もいない」というオープニングに触れ、夢がなかった学生の頃、千円のマイクを買って喋りの配信から始めたこと。歌を歌うようになって、音楽活動をやらないかと声をかけてもらったこと。

 「僕はグループじゃない。音楽をやるにあたって、僕の声が出なかったり、いい曲が書けなかったり、自分の作品が受け入れられなかったらそこで終わってしまうのかなって。今日のライブだって、中止にしようと言われた時には世界が終わってしまうような気がして」と語る場面では声を詰まらせた。

 好きなことを続けていたら、それが認められた。天月の持つストーリーは、多くの人からすれば、夢物語そのもののサクセスストーリーと言えるだろう。

 だが、1人きりで活動しているからこそ、自分が折れればそこですべてが終わってしまう。急激に認知を高めているとはいえ、音楽シーンでいえば「歌い手」という存在だってまだ新参者だ。その先頭集団の1人である天月の活動は、常にあらゆる角度から注目を受けるだろう。コロナ禍における無観客ライブ開催という選択だって、その一つと言える。そんな立ち位置を背負い、先人のいない道を切り拓いていくプレッシャーは並のものではないだろう。

 けれど、そんな重さも「Hello,My Story」が軽やかに塗り替えていく。〈最高な世界だ 君があらわれて 何もかもが変わったんだ〉と、リスナーとの出会いを喜び、自分の人生を祝福するようなこの歌。途中に「好きなものを好きと言える世界でよかった! それは何よりも何よりも、君がいてくれたからだ!」と叫んだ天月。厳しいことだってたくさんあったはずの道のりを思えばこそ、その言葉が眩しい。

 プログラムをすべて終えた後、「もう一つ甘えていいですか」と切り出した天月。1日目の最後、あと1曲あると勘違いしていたことに触れながら、もう1曲やりませんか、とスタッフに提案。画面上に視聴者からの歓喜のコメントが流れるのをバックに、2日連続となる「きっと愛って」を披露した。〈きっと愛って独りよがりじゃなくて〉と歌うこの曲は、人との関係性が双方向のコミュニケーションであることを示す曲だ。途中、天月が「みんな歌って」と叫んだ時、どれほどの人が画面の向こうでそれに応えただろうか。直接届けることはできなくても、一緒に歌い、声をあげ、ペンライトを振り、拍手を送った視聴者が、きっと日本中に大勢いただろう。

 全パフォーマンスを終えたあと、満足げな表情で天月はこう言った。

「お客さんいたわ。画面の向こうにたくさん」

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。
Twitter(@erio0129)

■リリース情報
天月-あまつき-「儚きゴースティング」
8月31日(月)配信開始

天月-あまつき-「アイビー」
8月31日(月)配信開始

天月-あまつき-「カラフルタッグチーム」
8月31日(月)配信開始

天月-あまつき-「Letters to me」
8月31日(月)配信開始

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